第七百八十四話 5月28日/高橋悠里は寝坊せずに朝起きて、家の前で要と会って驚く

『アルカディアオンライン』をログアウトした悠里は、ゲーム機器を充電してトイレに行き、それからスマホのメッセージを確認した後に、スマホを枕元に置いて就寝した。

明日は寝坊しないで、朝、起きられるといいなあ。

おやすみなさい……。


……耳元でアラームが鳴っている。

悠里は手を伸ばして枕元のスマホを手に取り、アラームを解除した。


「今朝は起きれた。よかった」


小さな声で呟いて、スマホの充電が少なくなっていることに気づく。

少しだけでも充電しよう。

悠里はベッドを下りてスマホを充電して、伸びをする。


それから、悠里は学校に行く準備をした後にパジャマから制服に着替え、脱いだパジャマを持って自室を出た。


洗面所で顔を洗って髪を結う。

毎朝のルーティーン。そして朝食を食べて歯を磨き、トイレを済ませてからリビングのサイドボードの上に置いてある箱からグレーの不織布マスクを手にして、つけた。

そして、通学鞄を手に持って、玄関で靴を履く。

祖母が玄関に立ち、見守ってくれている。

靴を履き終えた悠里は祖母に視線を向けた。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい、悠里。気をつけてね」


「はあい」


家を出た悠里は、いつも一緒に登校している幼なじみの晴菜の姿を探す。


「はるちゃん、いない……? 寝坊かな?」


晴菜の家まで迎えに行った方がいいだろうか。

それともここで、もう少し待つ……?

悠里が迷っていると、見覚えがある赤い車が走ってきた。

赤い車は急ブレーキで郵便局の前に停車した。運転席にいるのは髪が長い女性のようだ。


「あの車って要先輩のお母さんの車……?」


悠里はゴールデンウィークに要と出かける機会があり、その時に、彼は赤い車で悠里の家の前まで来たことがあるのだ。


助手席から要が降りて来た。


「悠里ちゃん、遅くなってごめん……っ」


要は悠里に駆け寄り、謝罪した。

なぜ、要が今、ここにいるのかわからずに悠里は瞬く。

要は悠里が状況を飲み込めていない様子であると気づいて説明を始める。


「松本さんから聞いてない? 今朝は松本さんが生徒会の作業に入るらしくて、悠里ちゃんと登校してほしいってメッセージが来てたんだけど。そのメッセージに気づいたのが朝ご飯を食べた後だったから遅れたんだ。ごめんね」


要の言葉を聞いて、悠里は事態を理解した。

そして要を見て、停車した赤い車に視線を向けて一礼する。

要の母親は運転席から手を振ってくれた。


「要先輩、わざわざありがとうございます。要先輩のお母さんにもお礼を言っておいてくださいね」


「うん。じゃあ、学校に行こうか」


「はいっ」


悠里は要が差し出した手に自分の手を重ね、そして二人で歩き出す。



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