第七百七十八話 マリー・エドワーズは真珠がスロットの『お手本』を見せようとしている時に、扉がノックされたことに気づく

「次は真珠の番になったの? 真珠、一回遊んだら、次はナナさんに交代するんだよ」


「きゅうん……。……わん」


マリーに諫められ、真珠は渋々肯いた。


「真珠さん。私にお手本を見せてくださいっ」


「わうわん?」


ナナが言った『おてほん』という言葉の意味がわからなくて真珠は首を傾げる。


「マリーさん。真珠さん、何か困ってるみたいなんですけど……」


真珠がなぜ首を傾げているのかわからず、ナナはマリーに助けを求めた。

真珠語に慣れているマリーは少し考えて口を開く。


「真珠。もしかして『お手本』という言葉の意味がわからないの?」


マリーに問いかけられて真珠は肯く。

マリーは『お手本』の意味を伝えようとしたが、自分自身もふわっとした理解しかないことに気づいた。

真珠とナナがマリーの言葉を待っている。


「ええと、スロットの絵を三つ揃えて見せてっていうこと……ですよね?」


マリーが言葉を選んで正解を窺うようにナナに視線を向けると、ナナは笑顔で肯く。


「わわ、わんわぅ、わんわう!!」


真珠はナナに『王冠』の絵を三つ揃ったところを見せるべく、気合を入れてスロットマシーンに向き合い、スロットマシーンの丸いボタンに右の前足を置いた

真珠の準備が整ったようなので、マリーは『ヘヴンズコイン』一枚をコイン投入口に入れた。

スロットが回り出す。

スロットマシーンが賑やかな音を立て始めた。

スロットマシーンが賑やかな音に重なるように扉をノックする音がした。


「あれ? 今ノックの音がした?」


回るスロットを食い入るように見ている真珠とナナはノックの音に気づかず、マリーだけがノックの音に気がついた。


「はあいー」


リアルで玄関のチャイムの音が鳴ったノリで、マリーは扉を開けに行く。

扉を開けると護衛騎士を伴ったユリエルがいた。


「マリーちゃん、おはよう。ゲーム時間はもう夜になってるけど」


「ユリエル様、おはようございますっ。今、真珠がスロットやってるところなんです。どうぞっ」


マリーはユリエルを部屋の中に招き入れた。

部屋に入ったユリエルは、食い入るようにスロットマシーンを見つめている侍女のナナの姿を見て眉をひそめる。

ナナはマリーと真珠の世話係のはずだが、なぜ世話を焼かれる側のマリーが扉を開け、世話をする側のナナがスロットを見ているのか。

この姿を領主館の侍女長が見たら、きっとナナは叱られるだろう……。


「真珠、頑張れー!!」


「真珠さん、頑張ってください!!」


「わんっ!!」


だが、マリーと真珠がナナと楽しそうに遊んでいるので、とりあえずナナの職務怠慢を侍女長に伝えるのはやめようとユリエルは思った。



***


光月7日 夜(5時03分)=5月27日 21:03

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る