第七百七十六話 マリー・エドワーズは真珠が『王冠』の絵を三つ揃えるのを見た後、ナナに『スロットマシーン』の遊び方を教える

マリーがアイテムボックスから取り出した丸椅子をスロットマシーンの前に置くと、真珠は意気揚々と丸椅子に飛び乗る。

この丸椅子はマリーの祖父が真珠のために作ってくれたものだ。

真珠は丸椅子の座り心地が気に入っている。


マリーはスロットマシーンの背面に回り、少し窪んだ取っ手に手を掛けてコイン補充口の蓋を開けた。

そこからスロットマシーンで遊ぶための『ヘヴンズコイン』を一枚取り出して蓋を閉める。


「真珠。今コインを入れるね」


「わんっ」


マリーの言葉に真珠が肯く。

マリーは『ヘヴンズコイン』一枚をコイン投入口に入れた。

スロットが回り出す。

スロットマシーンが賑やかな音を立て始めたところでナナが部屋に入ってきた。

ヘアブラシ等が入った美しい装飾が施された箱を手にしたナナは、部屋を出る時には無かったスロットマシーンの存在に目を丸くする。


スロットマシーンの丸いボタンに右の前足を置いたギャンブラー真珠は、スロットの動きを注視していてナナが戻ってきたことに気づかない。

マリーは両手を握りしめ、真珠を応援している。

……今だ!!

真珠はリズミカルにスロットマシーンのボタンを押した。

いつものように『王冠』が出た。


「『王冠』だ!! 真珠、すごい……っ!!」


はしゃぐマリーの声につられるように、ナナがおそるおそるスロットマシーンに近づく。

真珠が次々に『王冠』の絵を揃えていく。

スロットの左・真ん中・右と『王冠』の絵が出揃うとスロットマシーンは『当たり』の音を立て、スロットマシーンのコイン受け取り口には音を立ててヘヴンズコインが流れ出る。


「やったー!! コイン出た!! 真珠、すごい……っ!!」


「わんわぅ、わうう……っ!!」


マリーと真珠は流れ出たコインを見て大喜びする。

そしてマリーは収納していた皮袋をアイテムボックスから取り出し、コイン受け取り口に流れ出たヘヴンズコインを皮袋にぎゅうぎゅうに詰めて、スロットマシーンの背面に回って少し窪んだ取っ手に手を掛けて、コイン補充口の蓋を開けた。

そして皮袋に入ったヘヴンズコインをコイン補充口に入れ、コイン補充口の蓋を閉めた。


「マリーさん、真珠さん。それはなんですか?」


「ナナさんっ。これは真珠のスロットマシーンと丸椅子ですっ」


「わんわぅ、わんわんっ」


「すろっとましーんというのは、私、初めて見ました」


「真珠はスロットマシーンで『王冠』の絵を揃えるのがすごく上手なんですっ」


「わんわぅ、わんわんっ」


「真珠さんはすごいですねえ」


ナナに褒められた真珠は嬉しくて胸を張り、マリーは自慢のテイムモンスターの真珠が褒められてドヤ顔になる。


「ナナさんもやってみますか? スロットマシーン」


「えっ? いいんですか?」


「真珠、いいよね?」


「わんっ」


マリーの言葉に真珠は肯き、軽やかに丸椅子から飛び下りる。


「あの、じゃあ、お言葉に甘えて……。箱、テーブルに置いてきますね」


ナナは手にしていた箱をテーブルに置きに行き、マリーは勢いで全部スロットマシーンに入れてしまったヘヴンズコインを一枚だけ取り出した。

ヘアブラシ等が入った箱をテーブルに置いたナナはスロットマシーンに歩み寄る。


「ナナさん。スロットマシーンの前にある丸椅子に座って下さい」


「わんっ」


マリーの言葉に真珠も肯く。

ナナはいつもマリーと真珠に優しくしてくれるので、真珠の大事な丸椅子に座らせてあげる。


「わかりました」


ナナはマリーと真珠に従い、スロットマシーンの前に置かれた丸椅子に座った。

マリーはヘヴンズコイン一枚を握りしめ、丸椅子に座るナナに視線を向けて口を開く。


「今から『スロットマシーン』の遊び方を教えますね。まずは」


「わうん、わわわ、わううっ」


真珠がスロットマシーンの『コイン投入口』の前に走って行って、ナナに説明する。

だがナナは真珠が言いたいことがわからず、首を傾げて、助けを求めてマリーに視線を向けた。

マリーはナナに肯き、手にしているヘヴンズコイン1枚を彼女に見せて口を開く。


「真珠の言う通り、まずはこのコイン1枚を『コイン投入口』に入れます。『コイン投入口』っていうのは、この細長い穴のことです」


マリーは真珠に説明しながらヘヴンズコイン1枚をコイン投入口に入れた。


ナナは真剣にマリーの説明を聞き、彼女の手元を見つめる。

スロットが回り出した。


「うわあっ!!」


にぎやかな音を立てて回り出すスロットにナナは驚く。

真珠は驚いているナナを見て、自分も初めてスロットが回って大きな音がした時は驚いたと懐かしく思い出した。


「ナナさん。突然音が鳴ったからびっくりしたんだね。でも大丈夫だよ」


マリーが優しくナナを慰める。

真珠もナナを励ましたくて、尻尾を振って肯いた。

スロットマシーンのスロットは回転を続けている。


「説明を続けますね。えっと、スロットマシーンの真ん中の丸いボタンを押すと、一個ずつスロットが止まります。一回押すと一番左端のスロットが止まります。次は真ん中のスロットが止まって、最後に一番右端のスロットが止まります。三つ、同じ柄を揃えるとコインが出てきます。わかった?」


「はい。この丸いボタンを三回押せばいいんですよね?」


「うん。そうです。じゃあ、ナナさん、やってみてね」


「わんわんっ」


ナナは、マリーと真珠に見守られながら、緊張した面持ちでスロットマシーンの真ん中の丸いボタンに右手で触れた。


***


光月7日 夕方(4時45分)=5月27日 20:45



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