第七百七十話 5月27日/高橋悠里はサックスパートのメンバーとフローラ・カフェで『アルカディアオンライン』の話をする
フローラ・カフェの店内にいる悠里たちは、それぞれに飲み物を口にした。
「『ネクタル』めちゃくちゃおいしいー!! でもあたしのお小遣いだと自腹はキツい値段設定なんだよねえ。『ネクタル』って……」
「『アルカディアオンライン』なら、ゲーム内通貨で『ネクタル』を飲めますよ」
『ネクタル』のおいしさに感動し、中学生には高額過ぎる『ネクタル』の価格設定に絶望している萌花に視線を向けて悠里は言った。
悠里の言葉を聞いた萌花は目を丸くして口を開く。
「えっ!? ゲームの中で、ゲームのお金を払えば『ネクタル』が飲めるってこと!? 『ネクタル』の味はリアルと同じなの?」
「私はゲームで飲んだ時『ネクタル』の味、すごくおいしいと思いました。テイムモンスターの真珠もめちゃくちゃおいしそうに飲んでました」
「あたしの『アルカディアオンライン』のゲーム機器、届いたけどまだ箱から出してないんだよねえ。なんか面倒くさくて。でも『ネクタル』を飲むために『アルカディアオンライン』で遊ぶよ。高橋ちゃん、あたしが『アルカディアオンライン』のプレイを始めたら一緒に遊ぼう」
「はいっ。えっと、私の主人公は『港町アヴィラ』というところにいるので、そこに住んでる主人公を選んでもらえると、会いやすくなるかもしれないです」
「わかった。スマホにメモするね。『高橋ちゃんの主人公、みなとまちあびら』だよね。うん、オッケー。メモ完了」
萌花は制服のポケットからスマホを取り出してメモをした後、スマホをポケットにしまう。
悠里と萌花の会話を聞いていた颯太は、悠里に視線を向けて口を開いた。
「俺の主人公と高橋の主人公は近くにいるのかも。俺の主人公は『グリック村』にいるよ。高橋は『グリック村』って知ってる?」
元々、悠里に失恋した痛みから目を逸らし、気を紛らわせるためにファンタジーVRMMO『アルカディアオンライン』のプレイを始めた颯太だったので、気になるNPC女子キャラとの関わりに全力を注ぎ、極力プレイヤーとは関わらないようにしていたが、今は悠里への恋心を捨てられない自分を自覚し、悠里との距離を詰めようと思っている。
悠里は知っている村の名前が出てきてテンションが上がる。
「知ってる!! 私『グリック村』に行ったこともあるんだよ。もしかしたら村の中で私の主人公と相原くんの主人公がすれ違ってるのかもしれないねっ」
「高橋は今日、帰ったら『アルカディアオンライン』をプレイする? 俺が『港町アヴィラ』に行ったらフレンド登録してくれるか?」
「悠里ちゃんの主人公は今『港町アヴィラ』の領主館にいるから会えないよ」
要が悠里と颯太の会話に割って入って、言う。
悠里は領主館に入るためには特殊なアイテムが必要であることを思い出した。
港町アヴィラの領主子息の主人公でプレイしている要の許可さえあれば、颯太の主人公が領主館に立ち入れることに、悠里は思い至らない。
「相原くんは『港町アヴィラ領主の感謝状』っていうアイテム持ってる?」
「たぶん持ってないと思う」
「そっかぁ。じゃあ、港町アヴィラの領主館には入れないね。私が『グリック村』に行った時に相原くんの主人公に会えたらフレンド登録しようね」
「わかった。俺の主人公の名前、伝えておいた方がいいよな。俺の主人公は『ロビー・アール』っていうんだ。15歳だよ」
「ロビー? どこかで聞いたような名前……。どこで聞いたんだっけ?」
『ロビー・アール』というのは悠里の主人公であるマリー・エドワーズ(5歳)のNPCの友達のノーマの幼なじみの名前だったが、悠里は思い出せない。
悠里は自分の記憶を探り、ロビーという名前をどこで聞いたのか思い出すのを諦めて口を開いた。
「私の主人公の名前は『マリー・エドワーズ』だよ」
この時、悠里は自分の主人公『マリー・エドワーズ』の年齢を颯太に伝えなかった。
颯太は『マリー・エドワーズ』が5歳の幼女だとは全く思わず、すでに会って大泣きされた相手だとは考えもしなかった。
その後、悠里たちはファンタジーVRMMO『アルカディアオンライン』未プレイの萌花にゲームの内容について話したり、球技大会の話題で盛り上がり、楽しい時間を過ごした。
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