第七百六十九話 5月27日/高橋悠里は颯太とフローラ・カフェの店内にある自販機へと向かい、席に残った要は萌花と話す

悠里たちは駅ビルの一階にあるフローラ・カフェ星ヶ浦駅前店に到着した。

全員がフローラ・カフェのカードを持っていたので、カードを使って店内に入る。

満席と表示されなくてよかった。


店内の座席は7割ほど埋まっていた。

悠里たちは開いている二人掛けの座席に座ろうと話す。

二人掛けの座席が隣り合って二つ空いている場所に立ち、まずは二人掛けの座席に悠里と要が向かい合って座る。


「あたし、高橋ちゃんの隣に座ろっ」


悠里の隣……と言っても、二人分のスペースが空いているのだが……に萌花が座った。

悠里の向かい側か隣の席に座ろうとしていた颯太は、ため息交じりに空いている萌花の向かい側の席に座った。

向かい側は萌花で、隣には要。

颯太としては最悪の位置取りだ……。


「ねえねえ、じゃんけんで負けた人が全員に奢るって言うのはどう? 楽しいよ」


「面倒くさいこと言うな、篠崎」


「藤ヶ谷くんはあたしにじゃんけん負ける気満々なのかな? カノジョの前で勝っていいとこ見せないと……っ」


「篠崎はバカなの? 俺がじゃんけんに勝つってことは、悠里ちゃんが負ける確率が上がるってことだよ」


「確かに……っ」


「俺、自分の分買ってきてもいいですか? 高橋、一緒に行く? 俺ら一年が先に買ってきた方がいいと思うし」


「あ、そっか。先輩たちにゆっくり選んでもらいたいもんね」


萌花と要が言い合いをしている隙を突いて、颯太は悠里を誘ってフローラ・カフェの店内にある自販機へと向かう。

要と言い合いをしていた萌花は、連れ立って自販機へと歩いていく颯太と悠里の背中に視線を向けた。


「今日、相原くん、高橋ちゃんにめちゃくちゃ話しかけてない? フラれてからずっと距離取ってたのに」


「篠崎もそう思う? 相原、なんか心境の変化とかあったのかな」


「あたしはフラれた人を追いかける気持ちとか、わかんないなー。あたしのこといらないっていう人のこととか、時間が経つとどうでもよくなる」


「篠崎は相原のこと、どう思ってる?」


「話してると楽しいし、なんだかんだ話聞いてくれるから、後輩としては好きだよ」


「恋愛的に好きとか?」


「まさか。だって相原くん、あたしのこと眼中に無いじゃん? あたしはそういう人のこと、恋愛的に好きになるのって不毛だと思うんだよね。美羽先輩の恋愛の結末見てたら、余計にそう思う」


「今も佐々木先輩と連絡取ってるの?」


「たまにメッセージのやり取りするくらいかな。美羽先輩、受験生だから勉強とか忙しいみたい」


「篠崎と佐々木先輩、あんなに一緒にいたのにな」


「ねー。それを考えると、なんか空しい……。だから藤ヶ谷くんと高橋ちゃんが仲良くしてるの見るとめちゃくちゃ羨ましい。あー。あたしもあたしのことを好きになってくれるカレシが欲しいなー」


「まずは篠崎が好きな相手を見つけることから始めたら?」


「その相手はどこにいるのよ」


「俺に聞くなよ。吹奏楽部にもいい奴いっぱいいるだろ?」


「んー。まあ、考えてみる……」


要と萌花が話していると、自販機で飲み物を買った颯太と悠里が飲み物を乗せたトレイを持って戻ってきた。

悠里のトレイにはカップが二つ乗っている。

悠里はカップの一つを手に取って、要の前に置いた。


「要先輩っ。『フローラ・ブレンドコーヒー』です。どうぞっ」


「買ってきてくれたんだ。ありがとう。今度デートする時は俺が奢るね」


要の言葉を聞いた悠里は首を横に振る。


「私、要先輩にいっぱいごちそうしてもらってるので大丈夫ですっ」


「高橋ちゃん、藤ヶ谷くんが奢ってくれるって言うんだからゴチになればいいのに」


「篠崎先輩、そういうとこですよ。モテない理由」


「相原くんの言葉であたしは深く傷つきました。慰謝料に『ネクタル』を要求します」


「無理です」


「『ネクタル』飲みたいーっ。クラスの友達がめちゃくちゃおいしいって言ってたから飲みたいーっ」


颯太に拒否られた萌花はゴネた。

ゴネる萌花を見て、要はため息を吐き、立ち上がる。


「『ネクタル』買ってくる。篠崎がうざいから」


「やったー!! 藤ヶ谷くん、かっこいい!! ありがとうっ!!」


「その代わり、ちゃんと見てろよ」


「了解ー」


要は自分の会員カードを持って自販機に向かう。


「ちゃんと見てろって、何をですか?」


要の言葉が気になった悠里が、自分の席に座りながら首を傾げて問いかける。


「ん? 鞄かな……」


萌花の言葉を聞いた悠里は納得して肯いた。


「そうですよね。鞄にはお財布とか入ってますもんね。私も、要先輩の鞄、しっかり見てますっ」


「そうそう。二人でしっかり見ようっ」


要は『悠里と颯太を見ていろ』と言ったことを理解しているが、萌花は話を逸らした。

その後、萌花が悠里に話しかける颯太の邪魔をしまくっていると『ネクタル』を買った要が戻ってくる。


「しっかり見てたよー。『ネクタル』分働いた」


「お疲れ」


要は萌花の前に『ネクタル』を置く。


「私もちゃんと見てましたよっ。要先輩の鞄っ」


「俺の鞄? あ、うん。ありがとう、悠里ちゃん」


要は何の話かわからなかったが、誇らしげに言う悠里が可愛かったので、とりあえずお礼を言った。


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