第七百六十八話 5月27日/高橋悠里はサックスパートのメンバーと駅ビルのフローラ・カフェ星ヶ浦駅前店に向かう
吹奏楽部の部活を終えた帰り道、サックスパートのメンバーで駅ビルのフローラ・カフェ星ヶ浦駅前店に向かう。
新型コロナが蔓延しているせいで、中学校の制服を着て、皆で出かけることはあまりないので悠里は嬉しい。
「藤ヶ谷くんにも言ったんだけどさ、球技大会、サックスパートで試合の応援しようよ。野球部の応援みたいに」
「甲子園のスタンドで演奏してる吹奏楽部員、かっこいいですよね。俺はやってみたいですけど、うちのバスケのチーム、球技大会で優勝する気満々なんで演奏は無理ですね」
バリトンサックス担当の二年生、篠崎萌花の言葉にテナーサックス担当の一年生、相原颯太が言った。
颯太の言葉を聞き咎めた要が颯太に冷ややかな視線を向ける。
「一年で球技大会優勝するのは厳しいんじゃない? バスケ部も参加するし」
「だよね。去年は部活に入っている子はバスケとかバレーとか選べなかったけど、今年はそういう縛りはなくなったんだよね。生徒会が先生たちに働きかけたって聞いたよ。せっかく頑張って練習している好きな競技に出させてあげてほしいって」
要の言葉を受けて、萌花が言う。
悠里は、小学校の児童会は何をやっているのかよくわからなかったけれど、中学校の生徒会はきちんと働いているんだなあと思った。
「高橋。俺のバスケチームが球技大会で優勝したら、なんか奢ってよ」
萌花と並んで前を歩く颯太が、要と手を繋いで歩く悠里を振り返って言う。
「なんで私が奢るの!?」
「じゃあ、俺のバスケチームが優勝できなかったら、俺が高橋に何か奢るよ」
「それだと私に有利すぎない?」
悠里は颯太の言葉にあっさりと釣られ、要は眉をひそめた。
颯太は悠里にフラれてから、彼女と距離を置いていたのに、今、積極的に会話をしていることが気になる。
「相原くん。あたしもその賭け、やりたいんだけど」
「二人分奢られても困るし、二人分奢るのも嫌なので、高橋だけでお願いします」
「じゃあ、賭けは悠里ちゃんじゃなくて篠崎とやったらいいよ。相原」
「そうですねっ。要先輩の言う通りだと思うよ、相原くん」
「じゃあ、相原くんが球技大会のバスケチームで優勝しなかったらあたしに何か奢ってね」
「嫌です……」
悠里に奢ったり奢られたりしたかった颯太は、萌花に塩対応をする。
「じゃあ、サックスパートの全員が球技大会で負けたら、バスケとかバレーとか卓球の優勝試合とかにサックスを吹いて応援するとか、楽しそうじゃないですか?」
「でもたぶん、許可下りないと思うよ。楽器の演奏はマスク外すし、唾とか飛ぶから……」
はしゃいで言う悠里を、要はやんわりと窘める。
「そっか……。そうですよね。要先輩の言う通りかも……」
「新型コロナが蔓延する前は、入学式とかにも吹奏楽部が演奏してたって、あたしたちが一年生の時の三年生の先輩は言ってたよ。あー。皆の前で演奏したいなあ。コンクールはリモートだし、なんか寂しいよね」
悠里たちはお喋りをしながら、駅ビルに向かって歩き続けた。
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