第七百六十五話 5月27日/高橋悠里はめちゃくちゃ眠くて、母親に朝起こされてもなかなか起きられず、ゲーム機器を封印されるおそろしいカウントダウンが始まる

ファンタジーVRMMO『アルカディアオンライン』をログアウトした悠里は明日の学校の用意をした後、ゲーム機器を充電して、それから一階にあるトイレに行った後、就寝した。


「起きて。起きなさい、悠里っ」


母親の声がする。身体を揺すられている。

でも、悠里は眠くて目を開けられない……。


「悠里っ。学校に遅刻するわよっ。昨日、夜遅くまでゲームやってたんじゃないでしょうね……っ!?」


「よるおそくまでは……やってない……」


「昨日何時に寝たのっ!?」


「ねるとき、じかん、みてない……」


スマホで就寝時間を確認しなかった悠里は、アラームのセットもし忘れた。


「今から10秒以内に起きないと『アルカディアオンライン』を封印するわよ……っ。いーち、にーい」


腰に手をあて、仁王立ちする母親が、おそろしいカウントダウンを始めた。

悠里は必死に眠気と戦いながら起き上がる。

カウントダウンは『8』で止まった。危なかった……。


「二度寝したら『アルカディアオンライン』を封印するからね。制服に着替えて、早く一階に下りて来なさいよ」


そう言って母親は悠里の部屋を出て行った。

残された悠里は眠い目をこすりながら起き上がり、パジャマから制服に着替える。

そして脱いだパジャマを持って自室を出た。


悠里は脱いだパジャマを一階にある洗濯機の横に置いてある洗濯カゴに入れ、トイレに行って、洗面所で顔を洗う。

……まだ眠い。めちゃくちゃ眠い。

悠里はあくびをしながら髪を梳かして結い上げた。


朝食は飲むヨーグルトをフルーツグラノーラにかけて流し込み、それだけでは給食までお腹が空くと祖母に心配されたので、祖母が持ってきてくれたバナナを食べた。

おいしかった。


悠里は食事を終えて歯を磨き、学校に行く用意を整えて通学鞄を持ち、自室を出る。

まだ眠い。めちゃくちゃ眠い。


リビングのサイドボードの上に置いてあるグレーの不織布マスクをつけて玄関に向かう。

祖母が見送りに出てきてくれた。

母親はたぶん、朝食の食器の片づけをしているのだろう。


「お祖母ちゃん、行ってきます」


「行ってらっしゃい、悠里。気をつけてね」


悠里は靴を履き、通学鞄を持ってあくびをかみ殺しながら家を出た。


5月27日、木曜日は眠気と戦いながら過ぎて行った。

悠里はあまりにも眠くて昼休み、机の上に突っ伏して寝たので放課後には少し眠気がおさまっていた。

この状態なら、楽しく吹奏楽部の部活動ができそうで嬉しい。


帰りのホームルームを終え、悠里は帰り支度をして、晴菜は鞄を持った自分の席に座って本を読んでいる。

晴菜は今日、生徒会の手伝いをする予定で、生徒会に入っているカレシが教室に迎えに来るのを待っている。


「悠里、放課後になったら元気になったね」


読んでいた本のページから目を上げて晴菜が言った。


「昼休みに寝まくったのがよかったのかもっ」


「数学の時間も最初から最後まで寝てたよね」


「えっ!? 最初から最後まで寝てないよ。ちょっとは起きてたよ!! でもはるちゃん、眠くなさそうだよね。私と似たような時間に寝たはずなのに……」


「あたしは夜更かしに慣れてるの。読みたい本を読みたいだけ読むためにはどうしても夜更かしする必要があるのよ」


「ええ……。慣れたら眠くなくなるの? それ絶対違うと思う……」


「夜更かし耐性を得られるかは、人それぞれだから。じゃあ、悠里は部活、頑張って」


「うん。はるちゃんは生徒会の手伝い頑張って。バイバイ」


悠里は晴菜に手を振って、一人で1年5組の教室を出た。


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