第七百六十四話 マリー・エドワーズは領主館の一室で『リープ』して高橋悠里は『NPCとの友好度を最大値に上昇させる』アイテム『ホワイトラブリーチェリー』が配布/販売されることを知る

マリーたちを乗せた馬車は恙なく領主館前に到着した。


マリーはユリエルと隣り合って馬車に乗っている間、ユリエルの向かい側に座っている長い銀髪の怜悧な顔立ちの護衛騎士に、左手の薬指に嵌めているのは『最愛の指輪』かと聞いてみたかったが、護衛騎士の名前すら知らない間柄で質問などできるはずがないと諦めた。

真珠は馬車に乗ってから馬車が停止するまでずっと、尻尾を振りながら窓の外を見続けていた。


ユリエルは護衛騎士の手を借りて馬車を下り、マリーは御者の手を借りて馬車を下りた。

真珠はひとりで華麗にジャンプし、馬車から下りた。


領主館入り口には領主子息であるユリエルを出迎えるために侍女長と侍女、侍従が姿を現し、そしてマリーと真珠の世話係をしてくれている侍女のナナも現れた。


ユリエルは侍女長にマリーと真珠が領主館に滞在することを告げ、侍女長は真珠に『クリーン』をかけた後、侍女のナナにマリーと真珠の世話をするように申し付ける。

マリーは足を含めた全身が綺麗になった真珠を抱っこした。

ユリエルは真珠を抱っこしたマリーに視線を向けて口を開く。


「とりあえず今日は、これでゲームをやめよう。また明日、学校で会おうね」


「はいっ。おやすみなさい、ユリエル様」


ゲーム内では空が明るみ始めたのに『おやすみなさい』と言うのは少し変かもしれないけれど、リアルでは夜……真夜中のはずだ。

マリーがそう言うと、ユリエルは微笑んで口を開く。


「おやすみ、マリーちゃん。真珠くん」


ユリエルは侍女長に先導されながら階段を上がっていく。

護衛騎士がユリエルの後に続いた。


真珠を抱っこしたマリーは世話係の侍女、ナナに連れられ、ユリエルの叔母が子どもの頃に使っていた可愛い部屋に案内されて、寝る支度を整えて『リープ』した。


気がつくと、悠里は転送の間にいた。

無事に『リープ』できたようだ。

悠里はさっきログインした時に聞けなかったサポートAIのアナウンスを確認するために口を開いた。


「サポートAIさん。さっきログインした時、聞けなかったアナウンス、今聞いてもいいですか?」


「承知しました。『アルカディアオンライン』ゲーム制作スタッフは『NPCと仲良くなるための時間が取れない。でも恋人は欲しい!!』というプレイヤーの切なる要望に応えるべく『NPCとの友好度を最大値に上昇させる』アイテムの配布を開始しました」


「えっ。すごいっ。でも『アルカディアオンライン』ゲーム制作スタッフってそういうドーピング的な、ずるい方法とか嫌ってると思ってました」


「『アルカディアオンライン』ゲーム制作スタッフは『NPCと仲良くなるための時間が取れない。でも恋人は欲しい!!』というプレイヤーにKPを付与し続けるよりは、友好度ドーピングアイテムを配布した方がいいという結論に至りました」


「そうなんだ……」


「『NPCとの友好度を最大値に上昇させる』アイテムの名称は『ホワイトラブリーチェリー』です。条件を満たしているプレイヤーは『転送の間』でワタシに申請することで入手/購入することが可能です」


「えっ!? アイテムを貰える条件があるの!? 私は貰えますか?」


「確認します。確認中……。確認終了。高橋悠里様の『最愛の指輪』の所在確認。高橋悠里様の主人公マリー・エドワーズがユリエル・クラーツ・アヴィラの『最愛の指輪』を所持。高橋悠里様は『ホワイトラブリーチェリー』を受け取る条件を満たしていません」


「嘘!? なんで!?」


悠里は『ラブリーチェリー』が大好きな、マリーのテイムモンスター真珠のために『ホワイトラブリーチェリー』を貰いたかった。


「『NPCとの友好度を最大値に上昇させる』アイテム『ホワイトラブリーチェリー』は『自分の最愛の指輪を所持していて、誰からも最愛の指輪を受け取っていない』プレイヤーに配布/販売されます」


「そうなんだ。マリーがユリエル様から『最愛の指輪』を貰ったから、私は『ホワイトラブリーチェリー』を貰えないんだね」


「『ホワイトラブリーチェリー』はプレイヤーがNPCに『最愛の指輪』を受け取ってもらうためのアイテムなので、すでに恋人や伴侶がいるプレイヤーは対象外となります」


「ちなみに『ホワイトラブリーチェリー』はおいくらですか?」


「『ホワイトラブリーチェリー』は一房、リアルマネーで1万円/ゲーム内通貨で100万リズです」


「高……っ!! それはぼったくりじゃないですか!?」


「『ホワイトラブリーチェリー』一房は、条件を満たすプレイヤーに無料で配布されます。通常であれば、その一房でNPCに『最愛の指輪』を贈ることが可能であると思われます」


「そう言われたらそうかもしれないけど……。じゃあ『ホワイトラブリーチェリー』の種を埋めて栽培してもいいの?」


「『ホワイトラブリーチェリー』に種はありません」


「そうなんだ……。味は? 『ホワイトラブリーチェリー』の方が『ラブリーチェリー』よりおいしいの?」


「『ホワイトラブリーチェリー』と『ラブリーチェリー』の味はまったく同じです」


「じゃあ、マリーのテイムモンスターの真珠が『ホワイトラブリーチェリー』を食べちゃったら、食べさせたプレイヤーのところに行っちゃったりしますか……?」


「『ホワイトラブリーチェリー』の効能はテイムモンスターには作用しません」


「テイムモンスターの真珠が『ホワイトラブリーチェリー』を食べても何も起きないっていうこと?」


「左様です」


「そうなんだ。よかった」


サポートAIの言葉を聞いた悠里はほっとして微笑み、口を開く。


「お知らせって『ホワイトラブリーチェリー』配布/販売っていうだけですか?」


「はい」


「じゃあ私、ゲームをやめますね。ログアウト」


悠里の意識は暗転した。


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