第七百六十三話 マリー・エドワーズたちは教会前でマーキースと別れ、領主館の馬車に乗り込む

港町アヴィラの教会前には、領主館の馬車が停まっていた。

馬車に寄り添うように、領主子息のユリエルの護衛騎士が立っている。

護衛騎士はプレイヤーであるユリエルが教会に死に戻ると判断して、馬車と共に教会入り口で待っていたのだろうとマリーは思った。


白地に赤いラインが入った制服を着た護衛騎士は左手に腕輪をしていないNPCで、長い銀髪の怜悧な顔立ちの男性キャラだ。

マリーは彼の顔に見覚えがあるような気がして、なんとなく視線を彼の左手に向けた。

……左手の薬指に指輪をしている。もしかして『最愛の指輪』を嵌めているのかもしれない。

NPC同士の結婚指輪という可能性もあるけれど……。


銀髪の護衛騎士は護衛対象であるユリエルの前に進み出て恭しく一礼し、口を開いた。


「ユリエル様、お待ちしていました」


「ご苦労さま」


ユリエルは笑みを浮かべて護衛騎士をねぎらった後、抱っこしていた真珠をマリーに手渡して口を開く。


「マリーちゃんと真珠くんも、領主館に一緒に行かない? 真珠くんの腕輪を作るために彫金師を呼ぼうと思うんだ」


ユリエルは真珠が『マリーとお揃いの指輪……腕輪が欲しい』と大泣きするリスクを減らすために、そう申し出る。

ユリエルは真珠が好きなので、真珠を大泣きさせたくないし、真珠に喜んでもらいたい。


「わんわぅ、わうわっ」


「うん。マリーちゃんとお揃いっぽく作ってもらおうね」


「わんっ」


マリーの腕に抱かれた真珠は尻尾を振りながら肯く。

真珠がすっかり乗り気なので、マリーはユリエルの厚意に甘えることにした。


「じゃあ、あたし……じゃなくてボクは錬金術師ギルドの寮に行くね。またね、バイバイ」


マーキースはそう言って手を振り、錬金術師ギルドの寮に向かって走り出す。

真珠は大好きなマーキースが去ってしまって寂しくて項垂れた。

真珠はマーキースも一緒に馬車に乗ると思っていたのだ。


「わーうーう。きゅうん……」


マリーはしょんぼりしている真珠に気づき、彼の頭を撫でて慰める。


「真珠。マーキースとはまた今度遊ぼうね」


「わん……」


マリーの言葉に真珠は小さく肯いた。

領主館の馬車の御者が、御者席から下りて、馬車の扉を開けてくれる。


「ほら、真珠。御者さんが馬車の扉を開けてくれたよ。乗ろうね」


「わんっ。わんわぅ、わううわわううっ」


馬車に乗って窓から外の景色を眺めるのが大好きな真珠は、元気を取り戻してマリーの腕の中から飛び下り、馬車へと走り出す。

そして真珠は軽やかに馬車に乗り込んだ。


「マリーちゃん」


ユリエルがマリーをエスコートするために手を差し伸べる。

マリーは照れながら、ユリエルの手に自分の手を重ねた。



***


光月4日 早朝(1時47分)=5月26日 23:47

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る