第七百六十二話 マリー・エドワーズたちは『ホワイトラブリーチェリー』の話をした後にマーキースと合流し、教会を出る

港町アヴィラの教会の礼拝堂奥にある『復活の間』の壁際に歩み寄ったマリーと、真珠を抱っこしたユリエルは壁を背にして並んで立つ。

真珠は大好きなユリエルに抱っこしてもらってご機嫌だ。

まだ真珠の鼻は、もう一人のパーティーメンバーであるマーキースの匂いを捉えてはいない。

ユリエルは隣に立つマリーに視線を向けて口を開いた。


「さっきの話なんだけど。マリーちゃんは『ホワイトラブリーチェリー』って持ってる?」


「『ホワイトラブリーチェリー』ですか?」


「わううーわうー!!」


ユリエルの言葉を聞いたマリーは首を傾げ『ラブリーチェリー』と聞いた真珠は目を輝かせて吠える。


「私は持ってないです」


「くぅん……」


マリーの『持ってない』という言葉を聞いた真珠は『ホワイトラブリーチェリー』を食べられないとわかってがっかりした。


「詳しい話は俺もよくわからないから、ゲームをやめる時に『転送の間』に行ってサポートAIに聞いてみようと思うんだけど、なんか、NPCのパートナーを作るためのアイテムらしくて。プレイヤー同士では同じ一房を分け合って食べても特に何の効果も無いみたいなんだけど『ホワイトラブリーチェリー』を分け合う提案をすることは、プレイヤー間では『付き合いたい』っていう意志表示になるんだって。そういう話をしてたんだ。俺はもう、マリーちゃんに『最愛の指輪』を贈ったって言ったら『まだその子から指輪貰えてないんだね』って同情された……」


「ユリエル様っ。私、頑張って『錬金』スキルのレベルを上げて、ユリエル様にオンリーワンな『最愛の指輪』を贈りますねっ」


マリーは両手を握りしめ、決意を語る。


「わうわ……?」


真珠の耳はマリーが言った『指輪』という言葉を捉える。

真珠が、マリーとお揃いの『指輪』が欲しいと思っていたことを思い出しかけたその時。


「真珠くん、高い高い……っ!!」


真珠が、マリーとお揃いの『指輪』が欲しいと思っていたことを思い出しそうになっていると気づいたユリエルが、唐突に真珠を『高い高い』し始めた!!

真珠はユリエルに高く掲げられて目を丸くした後、尻尾を振って喜ぶ。

真珠は『高い高い』をしてもらうのが大好きなのだ。


「マリー、真珠、ユリエル様。待たせてごめん」


ユリエルが真珠を『高い高い』して、マリーがそれをほっこりと見守っていると、マリーたちが待っていたマーキースが現れた。


「わーうーう!!」


真珠は自分が探す前にマーキースが現れて、びっくりして青い目を丸くする。

ユリエルは真珠の意識が『指輪』から完全に逸れたようで、ほっとした。


「『錬金』のためにMP最大値を増やしてると『魔力枯渇』で死に戻るのめちゃくちゃ面倒くさい。でも自分に魔法撃って死に戻るの、怖いんだよね……」


「わかる。おいしい即死する毒薬とかあればいいのにねえ。あっ。そういえば私、情報屋さんが毒薬っぽいものを飲んで死に戻ってたのを見たことある気がする」


マリーがマーキースの言葉に腕組みをして肯きながら言うと、マーキースは瞬いて微笑し、口を開いた。


「マリー。おいしい即死する毒薬って、名案っ。『ガラスの靴』を作った後に毒薬錬金してみるねっ。西の森に毒草って生えてるのかな」


「クレムは……私のフレンドは爆発する草? で爆発するアイテムを作ってたような気がする」


マリーは錬金術師ムーブをしている少年、クレムの言葉を思い出しながら言った。

マーキースは爆発する液体を飲んだ自分を想像した後に口を開く。


「痛覚設定0で、痛みを感じないとしても、飲んで身体が爆散するのは怖いよ……」


「うん。そうだね。怖いね……」


マリーとマーキースの会話を黙って聞いていた真珠は『怖い』という言葉に反応して自分も項垂れ、ユリエルはマリーとマーキースの会話が途切れたところで口を開いた。


「リアルの時間がヤバそうだから、ゲームをやめられる場所に移動しよう」


ユリエルの言葉にマリーとマーキースは肯き、マリーとマーキースは肯いたのを見て真珠も肯く。

そしてマリーたちは教会を出るために歩き出した。



***


光月4日 早朝(1時40分)=5月26日 23:40

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