第七百五十八話 マリー・エドワーズは真珠が迷惑をかけたことをプレイヤーたちに詫び、ユリエルはピンクの子猿を『テイム』するか決めるじゃんけん大会を開催する

プレイヤーたちの陣営に戻ったマリーは自分のテイムモンスターの真珠が迷惑をかけたことを頭を下げて詫びた。


「うちの真珠が迷惑をかけてごめんなさい……」


「わわんわわう……」


「アー」


『ガード・アンブレラ』を閉じ、頭を下げる幼女とピンクの子猿を背中にへばりつかせて涙目で頭を下げる子犬に、怒りの感情をぶつけるプレイヤーはいなかった。


マリーたちがいるのは、プレイヤー陣営の奥だ。

プレイヤー陣営の前衛は、プレイヤーに対する戦意を剥き出しにして攻めてくる猿の群れを、遠距離魔法や弓矢、剣や槍で撃退していく。


「真珠の背中にひっついている、そのピンクの子猿はどうしたの?」


「アー」


「きゅうん……」


マーキースの言葉を聞いたピンクの子猿はしがみついている真珠の白い毛をぎゅっと握りしめ、真珠は力なく項垂れる。


「そのピンクの子猿、レアモンスターだ。討伐させてくれないか?」


「わたしはピンクの子猿を『テイム』したいっ」


「アー」


プレイヤーたちの注目を集めるピンクの子猿はマリーにつぶらな目を向け、首を傾げる。


「可愛い……っ。真珠の可愛さとの相乗効果でものすごく可愛い……っ」


「わんわぅ、きゅうん……」


マリーの言葉を聞いた真珠は首を横に振り、項垂れた。

身体を揺すってみても、真珠の背中の毛をしっかりと握りしめているピンクの子猿はそのまま背中にへばりついている。


「誰がこのピンクの子猿を『テイム』するか決めた方がいいね。じゃんけんでいいかな?」


港町アヴィラの領主子息ムーブをしているユリエルがリーダーシップを発揮して言う。

プレイヤーたちがユリエルの言葉を聞く姿勢になったことを見て取って、ユリエルは言葉を続ける。


「じゃあ、俺とじゃんけんで勝った人から、ピンクの子猿を『テイム』するっていうことで。ピンクの子猿を『テイム』したい人だけ立って、そうでない人は座るか、猿の群れとのバトルをお願いします」


ユリエルの言葉を聞いたプレイヤーたちは、その場に立ったり座ったり、猿の群れとのバトルに向かった。

ピンクの子猿を『テイム』したいマーキースはユリエルの向かい側に立つ。

ピンクの子猿を『テイム』する気が無いマリーはユリエルの隣に立った。

それぞれの行動が一段落したと見たユリエルは立っているプレイヤーを見渡して口を開く。


「後出ししたら、たぶんプレイヤー善行値が下がると思うので、後出しとかしないようにお願いします。では今からピンクの子猿を『テイム』する権利をかけた、じゃんけんを始めます。じゃんけん、ぽん」


マーキース、頑張ってじゃんけんに勝って……!! と思いながら、ユリエルの隣に立つマリーはユリエルの手とマーキースの手を見比べた。

ユリエルは『グー』を出し、マーキースは『パー』を出している。

『パー』を出したプレイヤーはマーキースを含めて5人いた。


「マーキース、勝ったっ。やった……っ」


マリーは小さな声で言い、拍手をしながらその場で小さく飛び跳ねる。

真珠は成り行きを見つめている。

ピンクの子猿は真珠の毛をむしっている。

ユリエルは『グー』を出したまま、じゃんけんの結果を見て口を開いた。


「今『パー』を出しているプレイヤー5人でじゃんけんをして、ピンクの子猿を『テイム』する順番を決めてください」


ユリエルの指示を受け、じゃんけんで買ったプレイヤー5人が集まり始めた。

錬金術師ギルドの青いローブを着たマーキースもその中にいる。

ユリエルは『パー』以外を出して負けたプレイヤーたちを見渡し、口を開いた。


「さっき負けた人たちと、じゃんけんをします。準備をしてください」


じゃんけんに負けて悔しがっていたプレイヤーたちはユリエルの言葉に気持ちを整える。

ユリエルは自分を見つめるプレイヤーたちを見渡して口を開いた。


「では、じゃんけんを始めます。じゃんけん、ぽん」


ユリエルは、今度は『チョキ』を出した。

『グー』を出したプレイヤーは6人、それ以外のプレイヤーは8人。


「今『グー』を出したプレイヤー6人でじゃんけんをして、ピンクの子猿を『テイム』する順番を決めてください。あと、今負けた人同士でもじゃんけんをして順番決めをしてください」


ユリエルはそう言った後、一番最初に『パー』を出して勝ったプレイヤーの一団に視線を向けた。


「一番最初に勝った人たち、ピンクの子猿を『テイム』する順番は決まった?」


「あたし……じゃなくてボクが一番っ」


問いかけるユリエルにマーキースが拳を突き上げて言う。


「じゃあ、決まった順番通りに一列に並んでピンクの子猿を『テイム』してください」


マーキースが『テイム』する気満々で、真珠の背中にへばりつくピンクの子猿を見つめる。

ピンクの子猿を背中に乗せた真珠は、早く家に帰ってベッドの上で休みたいと思いながらため息を吐いた。

空は、少しずつ明るくなってきている……。


***


光月4日 早朝(1時01分)=5月26日 23:01



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