第七百二十二話 マリー・エドワーズと真珠はマーキースとユリエルの『錬金塩』の取引を見守り、マリーは強制ログアウトする
マリーたちはユリエルに連れられ、領主館の客室に足を踏み入れた。
客室には絵画のような絨毯が敷かれ、テーブルと皮張りのソファーがあった。
ナナは来客のお茶の用意をしに行き、護衛騎士が扉の側に控え、ユリエルとマーキースが向かい合って座り、マリーは少し迷ってマーキースの隣に座った。
真珠はマリーとユリエル、どちらの隣に座るか迷って、一人で座っているユリエルの隣に飛び乗る。
マーキースは護衛騎士を気にしながら口を開いた。
「ユリエル様、例の固有クエストの……白い粉を持ってきたんですけど……」
マーキースは『錬金塩』という言葉を避けて『白い粉』と言った。
港町アヴィラが所属する『リューンライト王国』では塩の密造、密造した塩を販売した者はいずれも死刑になると、以前、情報屋から聞いていたので発言には慎重になる。
「ありがとう。受け取るね」
ユリエルはマーキースに微笑んで言う。
マーキースはステータス画面を出現させて、アイテムボックスから『錬金塩』が入った陶器のツボを取り出し、テーブルに並べる。
マリーと真珠はテーブルに次々と並べられていく『錬金塩』が入った陶器のツボを目を輝かせて見つめる。
「マーキース、このツボ、RPGのマップに並んでいるツボみたいですごいねえ。割ったらパリーンって割れそうっ」
「割らないでよ、マリー。白い粉がこぼれるから」
呆れ顔でマーキースが言う。
マリーはマーキースの言葉に何度も肯く。
上から叩きつけるように落としたら、ゲームの効果音のようにパリーンと小気味よい音を響かせるのかなあと空想しただけで、ツボを割るつもりはない。
マーキースがテーブルの上に並べた『錬金塩』が入った陶器のツボの数は10個。
ユリエルが全ての『錬金塩』が入った陶器のツボをアイテムボックスに収納した直後、マーキースはため息を吐いた。
「まだ固有クエスト達成にならない。し……ろい粉の納入量が足りないのかなあ」
「陶器のツボいっぱいにし……ろい粉が入ってたのにねえ」
マリーの言葉に真珠も肯く。
マーキースもマリーも『塩』と言いかけて『白い粉』と言い直しているので『し……ろい粉』という不自然な言い方になってしまっている。
『錬金塩』が入った陶器のツボをアイテムボックスに収納し終えたユリエルはマーキースに視線を向けて口を開いた。
「白い粉と陶器のツボの代金は、全部で金貨10枚でいい?」
「金貨10枚!?」
マーキースより早く、マリーがユリエルの言葉に反応した。
目を丸くして叫ぶマリーに、真珠は窺うようにユリエルに視線を向ける。
ユリエルはマリーと真珠を見て苦笑しながら口を開いた。
「適正価格だと思うよ。マーキース、いいかな?」
「ボクの方は問題ないです。ありがとうございます」
ユリエルはアイテムボックスから金貨10枚を取り出してマーキースに渡し、マーキースは受け取った金貨10枚を左腕の腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納した。
『錬金塩』の高額販売の現場を見て衝撃を受けたマリーの耳に、サポートAIの声が響く。
「プレイヤーの身体に強い揺れを感知しました。強制ログアウトを実行します」
その言葉を聞いた直後、マリーの意識は暗転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます