第七百九話 高橋悠里は雫と真琴に『アルカディアオンライン』をプレイしているか尋ねてお喋りをした後に、晴菜と球技大会の話をする

雫と真琴が教室に戻ってきたことに気づいた悠里は手を振って二人の名前を呼ぶ。


「雫ちゃん、真琴ちゃん……っ」


雫と真琴は悠里の呼び声に気づいて視線を向け、迷う素振りを見せた。

悠里が今、雫と真琴を理不尽に怒鳴りつけた佳奈の席の側に立っているせいかもしれない。


「雫ちゃん、真琴ちゃん……っ」


悠里がもう一度雫と真琴の名前を呼び、手を振ると、二人はお互いに視線を合わせた後、佳奈の席に歩み寄る。

佳奈は、悠里が雫や真琴とむりやり仲直りさせようとしているのかと警戒し、身構える。

悠里はスマホで佳奈に見せていた『アルカディアオンライン』の公式サイトを雫と真琴に見せた。


「雫ちゃんと真琴ちゃんは『アルカディアオンライン』をプレイしてる?」


悠里は『アルカディアオンライン』の公式サイトを雫と真琴に見せながら問いかける。

雫と真琴はスマホの画面を覗き込みながら、首を横に振った。

どちらも『アルカディアオンライン』をプレイしたことはないようだ。


「『アルカディアオンライン』ってSNSで宣伝とかしてるゲームでしょ? うちはやってないよ」


「絵がすごく綺麗なゲームなんだね。基本無料って本当? 無料とか言って騙して、後でお金取られるんじゃないの?」


雫と真琴の言葉を聞いた悠里はドヤ顔になり『アルカディアオンライン』の素晴らしさを語り始めた。

佳奈は雫や真琴とむりやり仲直りさせられるかと身構えていたが、毒気を抜かれて悠里の話に耳を傾けた。


「それでねっ。『アルカディアオンライン』には美形キャラのNPCもいるんだよっ。NPCと恋愛もできるよっ」


「悠里ちゃん。えぬぴーしーってなに?」


「ざっくり言うと、ゲームのキャラってことだよっ」


悠里は雫の疑問に答えて言う。


「えっ? この綺麗な絵のキャラと恋愛できるってこと? 『アルカディアオンライン』って乙女ゲームなの?」


真琴が『アルカディアオンライン』の公式サイトのグラフィックを見ながら尋ねる。

悠里は『乙女ゲーム』というワードに反応して目を輝かせた。

そして悠里と雫、真琴は『アルカディアオンライン』の話題で盛り上がり、その話の輪に佳奈も加わって、昼休みのチャイムが鳴るまでお喋りを楽しんだ。


昼休みのチャイムが鳴ると、悠里は慌てて自分の席に戻る。

悠里の後ろの席の晴菜は学校至急のノートパソコンの画面を見ている。


「はるちゃん、なに見てるの? 次の授業の予習?」


「球技大会の種目割り振りのデータを見てる」


「あっ。私、まだデータ確認してなかった」


「悠里は『卓球』になってるよ」


「そっか、よかった。はるちゃんは?」


「あたしはバレーボール。希望通りでよかった。でも二チームに名前が書いてある。どっちも出ろってことみたい」


「人数足りなかったのかなあ。でも、そういうことは本人に確認取ってほしいよね」


「あの担任にそういう気配りを期待するのは無駄だよね。しかも注意書きに『修正を希望する場合は生徒会へ』って書いてある。ムカつく」


「生徒会に丸投げって……職務怠慢」


「部活の顧問は無給とか聞くと、あんまり仕事しろとか言えないけどね。今は新型コロナでやること多くなってると思うし」


「うちの担任って何かの部活の顧問とかしてるの?」


「知らない。興味無いし。先生来たよ」


五時間目の教科担任が教室に入ってきて、悠里は慌てて前を向き、学校支給のノートパソコンを起動した。



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