第七百七話 高橋悠里は1年2組の井上愛子が行方不明になったことを知り、佳奈は給食の時間に教室に戻ってくる
一時間目の授業が終わっても、佳奈は教室に戻ってこなかった。
保健室で身体を休めているのかもしれない。
一時間目の教科担任が教室を出て行った直後、悠里は椅子に横座りして、後ろの席の晴菜を見つめる。
「はるちゃん、授業始まる前の話の続き、聞かせてっ。行方不明になった生徒って誰? 私が知ってる子? なんで行方不明になったの?」
「行方不明になったのは1年2組の井上愛子さん。あたしは小学校の図書室でも中学校の図書室でも顔を合わせたことがあるよ。同じクラスになったこともあると思う」
晴菜の言葉を聞いた悠里は眉をひそめる。
「いのうえあいこ。……私はちょっとわかんないかも」
「友達の輪から離れて図書室にいるのが好きな子だから、悠里は話したこと無いかもね。図書室の書架で小説を探してる姿とか、あたし、よく見たよ」
悠里は読書好きの晴菜に付き合って図書室に行くことがあるけれど、読むのはいつも漫画だ。
図書室で小説を読もうと思ったことは一度もない。
「図書室が好きで本が好きな子が、いきなり学校をサボるとか、無断外泊とかしないよね? なんで行方不明になったの?」
図書室が好きで読書が好きならインドア派だろう。
新型コロナが蔓延している今、突然、無断外泊や家出をしようと思い立つ理由がわからない。
中間テストが終わって、開放的な気分になったから、突然、どこかに行きたくなったとか……?
考えれば考えるほど、わからなくなる。
それは悠里が無断外泊や家出をしたいと思ったことが無いせいかもしれない。
悠里の言葉を聞いた晴菜はため息を吐いた。
「井上さん、昨日、家に帰ってこなかったんだって。井上さんを見かけた人は知らせるようにって、担任が言ったのはそれだけ」
「いのうえさん、心配だね」
「うん。でも、井上さんとそんなに親しいわけじゃないあたしたちは何もできないし。早く家に帰ってくるといいけど」
「誘拐とか無いよね? 怖いね。警察がちゃんと探してくれたらいいんだけど……」
行方不明になる人が多すぎて、届け出を出しても警察は真剣に探してくれないという話を聞いたことがある。
「井上さんも気になるけど、南さんのことも気になる。彼女、大丈夫そう?」
「何とも言えないけど、昼休みに佳奈ちゃんと話す約束はしたよ。今はたぶん、保健室にいるんだと思う」
「そっか。保健室で休めば、少しは気持ちが軽くなるかもしれないよね」
「うん」
悠里が晴菜の言葉に肯いた直後に教室の前の扉が開いて、二時間目の教科担任が教室に入ってきた。
椅子に横座りしていた悠里は座り直して前を向いた。
佳奈は給食の時間に教室に戻ってきた。
悠里が佳奈に手を振ると、小さく手を振り返してくれる。よかった。
給食を食べ終えて片づけてトイレに行った後、悠里はスマホを手に、佳奈の席に向かった。
***
1年2組の井上愛子が行方不明になった経緯は、別作品の『ネルシア学院物語』の第一話に記載しています。
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