第六百八十七話 高橋悠里は圭にメッセージを送信した後、圭と通話し『アルカディアオンライン』のNPCキャラは服の上から胸を触れることを知る

真子へのメッセージを送信した悠里は圭……ウェインがイヴに捕まったのかどうか気になった。

ウェインはマリーがフレンド全員に送信した一斉送信メッセージに唯一返信してくれて『銀のうさぎ亭』まで迎えに来てくれたのだ。


「圭くんにも『銀のうさぎ亭まで迎えに来てくれてありがとう』ってお礼のメッセージを送らなくちゃ」


ウェインが迎えに来てくれた時には、彼と別れ話がもつれているイヴがアポなし突撃していて……イヴも、マリーの一斉メッセージを読んで善意でやって来てくれたので文句など、とても言えない……マリーはイヴに気づかれないうちにウェインを逃がすことで精いっぱいだった。


その後、マリーと真珠を錬金術師ギルドに案内してくれた直後、イヴのフレンドから『教会前でウェインのことを足止めしている』というメッセージが届き、イヴは教会に走って行った。

それからどうなったのか、悠里は知らない……。


余計なことは書かずに『銀のうさぎ亭まで迎えに来てくれてありがとう』と記載して、圭にメッセージを送信した。


「圭くん……ウェインがイヴさんのこと、好きになってくれたらいいのになあ。……無理なのかなあ」


エロに流され、美人NPC女性と一緒にいるためにイヴを振ったウェインを許せるのだから、おそらくギャルゲーを含む様々なゲームを遊びまくることを優先して圭がデートを断っても、イヴの中の人のすずはおそらく許してくれるだろう。


問題なのは圭が胸が大きい女子が好きなことと、すずがスレンダーな体型だということだ……。


人の恋路など悠里にはどうにもできないが、一途にウェインを想い続けるイヴの姿を見ると切なくなってしまう。

そんなことを考えていたらスマホが鳴った。

圭からの直電だ。


「圭くん?」


「悠里、メッセージ読んだよ。錬金術師ギルドには行ったのか?」


「うん。イヴさんが連れて行ってくれた。その後にイヴさんのフレンドから連絡が来て、教会前でウェインを足止めしてるって……。大丈夫だった?」


「ああ、うん。教会前で話しかけてきたフレンドの挙動がなんか怪しかったから強引に話を切り上げて自分の『ルーム』に引きこもってログアウトした。だからイヴとは会ってないよ」


「そっか……」


イヴはあんなに張り切って教会に走って行ったのに、ウェインには会えなかったのかと思うと切ない。


「話変わるけどさ。悠里はワールドクエスト、チェックしてる?」


「うん。一応見てるよ。あんまり参加とかしてないけど……」


「一つヤバそうなクエストあるじゃん? 世界滅亡系っぽいの」


「ワールドクエスト『枯れ始めた世界樹 常若の森の危機』のこと?」


「うん、そう。俺、常若の森を目指そうと思うんだ。ゲーマーとしては世界滅亡系クエストは見逃せない。マリーと真珠も行くならパーティー組むけど、どうする?」


「私は……うーん……行きたいけど、でもマリーはまだ5歳だからNPCの家族が心配すると思うんだよね。真珠もまだ小さいから、あんまり無理させたくないし……」


「ああ、確かに。マリーは家族に大事にされてるもんな。俺は……ウェインは孤児キャラだから、そういうのなくて気楽になんでもできるけど」


「ウェインは美女NPCと一緒に行くの?」


「モイラはどうするんだろう? 俺は知らない。モイラは俺のフレンドから『最愛の指輪』を受け取ったから、モイラの逆ハーレム? は解散したんだ」


「えっ!? そうなの!? 圭くんフラれたの!?」


悠里は驚いて、思わず大きな声を出す。


「フラれたのは俺じゃなくてウェインな。まあ、元々モイラとの関係は、エロ目的で恋とかじゃなかったんだけどさ、俺のフレンドのアダムが」


「アダムって『アダムとイヴ』のアダム?」


「そう。そのアダムと同じ名前。『アルカディアオンライン』と聖書の『アダムとイヴ』は関係ない気がするけど。そいつがNPCのモイラに本気で惚れて『セーフティ機能をOFF』にした状態で口説きまくったわけ。そうなると『セーフティ機能がON』の状態のプレイヤーはマジで敵わなくて、社会人の凄さを知った。NPCは友好度上がるとマジで反応変わる。劇的に」


「圭くんはリアルでは容姿無双してモテてるけど、フラれ耐性があるからNPCにフラれても大丈夫そう?」


「フラれ耐性とか言うな。でもまあ、元気だよ。でもウェインがフラれたことはイヴには内緒な」


「なんで? 元サヤに戻ればよくない?」


「よくない。ウェインは自分勝手な理由でイヴと別れたんだから、元に戻るのはダメだ。また繰り返したら、イヴを傷つける」


「繰り返さなきゃいいじゃん。圭くんがエロに流されなければいいんだよ」


「男はエロには流されるだろっ!! 『アルカディアオンライン』はセクハラには厳しいけど、NPC女子はプレイヤー女子より緩いらしくて、服の上から胸触れるんだよ。マジで」


「うわあ。なにその発見。気持ち悪い……」


「気持ち悪くないだろ。むしろ気持ちいいから。マリーは幼女だから胸触るとか触られるとか全然関係ないだろうけど」


「うん。5歳の幼女にそういう目と感情を向けてくるプレイヤーとかNPCは無理すぎる」


悠里はリアルでもゲームでもロリコンは無理だが『アルカディアオンライン』はゲーム内NPCの幼女をプレイヤーやNPCが襲うことは問題ないと判断される。


王都リューンのスラム街では子どもが性暴力被害に遭うR18クエストに遭遇することがあるが『セーフティ機能をON』にした状態だとモザイクが掛かっていて『モザイクの芋虫』のような見た目になる。


加害者の顔だけはモザイク処理されないので、NPCを助けたい場合は、顔面を攻撃すれば撃破可能だ。


「常若の森は、フレンドと連絡取り合って、少しずつ時間ずらしてログインしながら、陸路でじりじりと進むつもり。海路だとクラーケンとか攻めてきて船が大破するかもしれないらしくて、NPCが船を出したがらないんだよ」


「クラーケンって、でっかいイカのモンスターだよね? RPGでも強い敵として出てくるやつ。なんか、足の数だけ魔法撃ってきたり、大津波起こしてくるよね」


「一人プレイ用のRPGだと大津波エフェクトとか見るだけで済むけどさ『アルカディアオンライン』で、海の上で大津波に襲われたら船が大破する一択だよな。船にエリアプロテクトかけたら、そのまま海上に留まることになるし、敵に攻撃もできなくなるから結局詰みだし」


「『アルカディアオンライン』は移動が大変なんだよね。頑なにワープ機能解放しない感じだもんね」


「常若の森にも死に戻りポイントの教会とかそれに代わる何かがあると思うんだけど、たどり着くまでがキツいと思うんだよな。モンスターとかNPCの盗賊の攻撃を受けたら、登録してる教会まで死に戻ることになる」


「うわあ。レトロRPGにたまにある『セーブできないダンジョン』みたい。私は無理……」


「難関を突破してこそのゲーマーだろうっ。諦めるな、悠里」


「無理。諦める。圭くん頑張ってね。私、応援してるから」


「うん。じゃあ俺、これから『アルカディアオンライン』に戻るよ。じゃあな」


「バイバイ」


悠里は圭との通話を終えた。



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