第六百八十話 マリー・エドワーズたちはお喋りをしながら錬金術師ギルドの階段を上がり、錬金術師ギルドのギルドマスターに会う



青色のローブを着た黒い肌の美女の背中……お尻の辺りを見ながら、マリーは階段を上がる。


「ウチらを案内してくれてるあの人、めちゃくちゃ美人だよねえ。錬金術師ギルドのギルドマスターもかっこいいのかな?」


アーシャはマリーと真珠に小声で囁いた。

マリーはアーシャに視線を向けて口を開く。


「お祖父ちゃんNPCとかじゃない? 美人が大好きでセクハラ発言を多発する、ギャグがつまんないキャラとか」


「夢も希望もないこと言うんだね。マリーちゃん……」


「くぅん?」


アーシャたちの会話を聞いて首を傾げている真珠に視線を向けて、アーシャは口を開いた。


「あーあ。真珠くんが『人化』スキルとかでイケメンに変身して、ウチの『最愛の指輪』を受け取ってくれたらいいのになあ……」


「えっ!? 『人化』スキルとかあるの!?」


アーシャの言葉を聞いたマリーはびっくりして大きな声を出す。

前を歩く美女は、騒がしく話し続けるアーシャとマリーを振り返ることも窘めることもせず、ただ淡々と階段を上り続けている。


「この前、スキル習得画面で検索したらあったよ。ヒューマン以外の種族がヒューマンの容姿になれるスキルみたい」


「そうなんだ。じゃあ、人魚のプレイヤーは『人化』スキルで『人魚姫ごっこ』できるかもだねえ」


リアルの祖母が人魚主人公でプレイしていることを思い浮かべながら悠里が言うと、アーシャが眉をひそめて口を開いた。


「『人魚姫』って悲しい話でしょ? 人魚姫が王子様の命の恩人なのに通りすがりのシスターに全部持ってかれちゃうヤツ。シスターは実は隣国の王女でしたってオチじゃなかった? 女主人公が『ざまぁ』される側の話が、よく今まで生き残ってこれたよねえ」


「『人魚姫』を『ざまぁ系』に分類するアーシャさんの発想がすごい。……今、何階? 結構上ってる気がするけど」


「たぶん、もうすぐ三階。あ、階段終わるみたいだね」


マリーの疑問にアーシャが答える。


マリーたちは三階にたどり着き、豪奢な扉の前に案内された。

マリーたちを先導していた青色のローブを着た黒い肌の美女が扉をノックして、開ける。


「ギルドマスター。紫色の光を発現させた者を、お連れ致しました」


目が痛いほどにきらびやかな室内に足を踏み入れたマリーとアーシャは顔をしかめ、真珠はきらきらの部屋を見て目を輝かせる。

白い皮張りのソファーに座って資料に目を通していた部屋の主が、目を上げて微笑む。


マリーは見覚えの顔を見て驚いて瞬き、アーシャは紫色の髪と目をした、美形NPC男性に、乙女ゲームの攻略対象のオーラを感じてときめいた。


「ずいぶん早い再会だね。お嬢さん。まさか君が『紫色の光』を発現させる者だとは思わなかった。さあ、ソファーに座って」


「あの、私のテイムモンスターの真珠もソファーに座ってもいいですか?」


「わんわぅ、くぅん……?」


「構わないよ。この部屋の悪趣味な家具は全部、前任のクソジジイが揃えたものだから、汚しても壊しても傷つけても構わない」


『前任のクソジジイ』というパワーワードを聞いたマリーはフリーズし、真珠は意味がわからなくて首を傾げ、アーシャは優美な見た目、でも毒舌キャラっていい……!! と思い、頬を上気させている。


紫色の髪と目をした、美形NPC男性はマリーたちを案内してきた女性NPCに冷たい視線を向けて口を開いた。


「お前は下がれ」


ねぎらいの言葉ひとつなく、まるで追い払うように女性NPCに言う。

彼女は一瞬、恨めしげな感情を表出させたが、その直後、痛みに顔を歪め、そして一礼して部屋を出て行った。


「あの女の人と、仲が悪いんですか? あの人、錬金アイテムの『呪縛の鎖』をつけてましたよね……?」


マリーはソファーに座らず、立ったまま、彼に視線を向けて問いかける。

マリーと初めて会った時、彼は扉を開けられないマリーのために扉を開けてくれた。

優しく笑って、真珠に名前を伝えていた。

でも、今、彼女に向けた視線は凍てついていて、とても怖い……。


「『呪縛の鎖』を知っているんだね、お嬢さん。君は幼いのにとても聡明だ。聖人であることも関係しているのだろうけれど。座りなさい。詳しい話はそれからだ」


「……はい」


マリーは真珠を抱っこして美形NPC男性が座っている向かい側のソファーに座る。

アーシャはおそるおそるマリーの隣に座った。


***


風月21日 昼(3時18分)=5月23日 19:18



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