第六百七十九話 マリー・エドワーズは青色のローブを着てアーシャに青色のローブの袖をまくってもらい、錬金術師ギルドの階段を上がる



「大変お待たせしました。こちらがお嬢さんの青色のローブになります。錬金術師ギルドのギルド員として行動をしたい場合は、常に着用してください」


「はいっ。わかりました」


マリーは受付のNPC男性から青色のローブを受け取り、満面の笑みを浮かべて踏み台を下りた。

アーシャは、マリーが手にしている青色のローブに視線を向けて口を開く。


「マリーちゃん、ローブを着てみて」


「うんっ」


マリーはアーシャに肯き、貰った青色のローブに袖を通す。

……袖が長くて、手が隠れてしまった。

裾はマリーの足首ほどで、ローブを引きずらなくて済んで、ほっとした。

マリーは長い袖に困ってため息を吐き、口を開く。


「袖、長い……。お母さんかお祖母ちゃんに袖、縫ってもらえばいいかなあ?」


「ウチが袖、まくってあげるよ。真珠くん、ちょっと下に降りてもらってもいい?」


「わんっ」


真珠はアーシャに肯いて、アーシャの腕の中から床に飛び下りた。

アーシャは身を屈めて、マリーの青色のローブの袖をまくった。

アーシャに青色のローブの袖をまくってもらったマリーは、自分の両手を見て笑顔になり、アーシャを見つめて口を開く。


「手、出た。ありがとう、アーシャさん」


「どういたしまして」


マリーとアーシャは微笑みあい、真珠はマリーとアーシャに視線を向けて嬉しそうに尻尾を振る。

そこに、ハイヒールの靴音が近づいてきた。


「マリー・エドワーズ様。これから、錬金術師ギルドのギルドマスターに会っていただきます」


マリーを見下ろしてそう言ったのは、黒い肌の美女で、厚ぼったい唇が魅惑的だ。

青色のローブを着ていて、左腕に腕輪は無い。彼女はNPCだ。


「ご案内します。どうぞこちらへ」


感情の見えない声音で、彼女が言う。

マリーは怖くなって立ち竦んだ。

アーシャと真珠はマリーが怖がっていると気づいた。


「あのっ。マリーちゃんだけじゃなくて真珠くんとウチも行っていいですよね? ウチはアーシャです。聖人で、マリーちゃんの友達ですっ」


「わんわぅ、わんわんっ」


「少々お待ちください。今、確認します」


彼女は耳につけているイヤリングで誰かの指示を仰いでいる。

マリーは、領主館で侍女のナナが侍女長に連絡を取るために使っていたイヤリングと同じ物だろうかと思いながら、左耳のイヤリングに触れる彼女の手を何気なく見て、青いローブの袖口から見覚えのある黒い鎖のアクセサリーが覗いていることに気づいた。

あれは錬金アイテム『呪縛の鎖』ではないだろうか……?


確認を終えた美女がアーシャと真珠に視線を向けて口を開いた。


「同席を許可するとのことです。こちらへどうぞ」


美しく背を伸ばし、美女が階段を上っていく。

マリーと真珠、アーシャは彼女の後に続いた。


***


風月21日 昼(3時12分)=5月23日 19:12

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