第五百九十三話 マリー・エドワーズはイヴに抱っこされ、真珠に案内されて『銀のうさぎ亭』に帰る途中にワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』が達成されたというアナウンスを聞く



真珠は周囲を警戒しつつ、マリーを抱っこしたイヴを先導して歩く。

緊張しているマリーや真珠とは対照的にイヴは気楽に構えていた。


「ねえ。マリーはワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』に参加しなかったの?」


イヴは、周囲を警戒して視線をさ迷わせるマリーに尋ねる。

マリーはイヴに肯き、口を開く。


「あのね。私、ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』のボス敵が、プレイヤーの主人公をキルできる怖い武器を持ってるって情報屋さんから教えて貰ったの。だから、私と真珠は参加しないでスルーすることにしたんだ。私、ずっと『マリー』でいたいから」


「そうなんだ。あたしも『イヴ』に愛着あるから、主人公をキルされるのは嫌だなあ。ウェインはこのこと、知ってるの?」


「私は知らせてないよ」


「じゃあ、マリーと真珠を家まで送ったら、あたしがウェインに知らせてあげようかな。ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』は本当、敵味方が入り混じってる感じで混戦なんだよね。あたしは青龍のブレス攻撃で死んだの」


「そっかぁ。青龍、怖いよねえ。私も一回遭遇したけど、もう二度と会いたくない。でも、お……じゃなくて人魚の主人公でプレイしてるプレイヤーは『青龍は神様だ』って言ってたよ」


「青龍ってアニメとか漫画とかで『四神』とかっていう時、なかったっけ? あたし、アニメとかたまにしか見ないし、漫画もスマホでたまに読むくらいだから詳しくないけど」


「わんわんっ」


見慣れた『銀のうさぎ亭』が見えてきて、真珠は嬉しくて駆け出す。

マリーとお喋りをしている時でもイヴは足を緩めることなく、しっかりと真珠の後について歩いていたのだ。

イヴの腕に抱かれたマリーがほっと息を吐いたその時、サポートAIのアナウンスが響いた。


「プレイヤーが隠し達成条件を達成しました。クエスト達成条件を満たしたため、ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』を終了致します。


プレイヤーが隠し達成条件を達成したので、四神の一柱『玄武』が解放されました。

『玄武』が完全に目覚めるまで3時間掛かります。

『玄武』が完全に目覚めた直後に『移動する島ヘルアンドヘヴン』のすべての建物が倒壊します。


これより、ワールドクエストを受諾したプレイヤー各位にワールドクエストポイント(WP)が付与されます。

詳しくはステータス画面の『クエスト確認』をご確認いただくか、転送の間でサポートAIにお尋ねください。


また、四神の一柱『玄武』を解放したことによりチェーンクエストが発生します。


ワールドクエスト『玄武覚醒 移動する島ヘルアンドヘヴンから脱出せよ!!』が発生しました。

受注条件は『クエスト発生時からクエスト終了時までに1秒以上ヘヴン島に滞在すること』です。クエスト受注の操作は必要ありません」


サポートAIのアナウンスを聞き終えたマリーとイヴは互いに顔を見合わせる。


「今、隠し達成条件を達成したって言ってなかった?」


イヴが首を傾げてマリーに問いかけ、マリーはイヴに肯いた。


「隠し達成条件ってなんだろうね? リ……じゃなくて転送の間に行ったら『クエスト確認』で見てみる」


マリーを抱っこしたイヴは『銀のうさぎ亭』の前でお座りをして、尻尾を振りながら待っている真珠に歩み寄り、抱っこしていたマリーを優しく地面に下ろした。

無事に家の前にたどり着いたマリーと真珠は笑顔で視線を交わし、それからイヴに頭を下げる。


「イヴさん。おうちまで連れてきてくれて、本当にありがとう!!」


「わう。わうううう!!」


「どういたしまして」


イヴはそう言いながら、マリーと真珠のために『銀のうさぎ亭』の扉を開けた。

マリーはイヴに手を振り、真珠はイヴに尻尾を振って、無事におうちに帰った。


『銀のうさぎ亭』のカウンターにいた祖父に温かく迎えられ、マリーは二階のベッドのある部屋を目指して、転ばないように慎重に段差の大きい階段を一歩ずつ上がる。


真珠も息を詰めながら、マリーの後に続いた。


***


風月14日 昼(3時12分)=5月22日 1:12



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る