第五百九十話 マリー・エドワーズと真珠は教会の入り口までたどり着き、マリーはイヴに背中を叩かれてまた死に戻る



マリーと真珠は周囲を警戒しながらのろのろと歩き、プレイヤーは、生命を狙われている雰囲気を醸し出しながら歩いている幼女と子犬を『ごっこ遊びをしているのかな』と思いながら微笑ましく見守る。


マリーと真珠は誰ともぶつかることなく教会を出て、ほっと息を吐いた。


「真珠。なんとかここまで来たね……」


「わん……」


「ちょっと休憩しようね」


「わん」


マリーと真珠は教会の入り口から少し離れた、人の流れの邪魔にならない場所に移動した。

いつもなら、何も考えず『復活の魔方陣』の部屋から出て、礼拝堂を通り抜けるのだけれど、今日はものすごく長い距離のように感じて疲れた……。

マリーはため息を吐いた後に顔を上げ、両手の拳を握りしめて口を開く。


「休憩終わりっ。真珠、頑張っておうちに帰ろうっ」


「わんっ」


マリーと真珠は互いの顔を見合わせて肯き、気合を入れる。

そして教会を背に一歩踏み出したその時。


「マリー!! 真珠!!」


背後から軽やかに駆け寄る足音とイヴの声がして、マリーの背中に衝撃が走る!!


ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』をこなすためにヘヴン島に行っていたイヴは青龍のブレス攻撃を受けて死に戻った。

青龍に文句を言いながら教会を出たイヴは、マリーと真珠を見かけて嬉しくて駆け寄り、喜びと親愛を込めてマリーの背中を強く叩いたのだ。


だが今、マリーのHP最大値は1なのだ!!

イヴの親愛の背中叩きで、マリーは1のダメージを受けた。

デメリットスキル『大泣き』の効果でHP上限が1になっていたマリーのHPが0になった!!

光に包まれるマリーと真珠を見て、イヴが驚いて目を見張り、口を開く。


「えっ!? マリー、死んだの!? なんで!?」


「せっかくここまで来れたのに……っ!!」


「わう!! ぎゃわん……っ!!」


マリーと真珠の姿はイヴの前から消え去った。


気がつくとマリーは教会にいた。

マリーの足元には真珠もいる。


「また最初からやり直し……」


「きゅうん……」


マリーは疲労を感じてしゃがみ込み、真珠も項垂れる。

マリーは耳が頭にぺたんとくっついている真珠の頭を撫でながら口を開いた。


「でもイヴさんは悪くないよね。だって今、私のHP最大値が1だなんて思わないもんね……」


「くぅん……」


「イヴさん、PK判定にならないといいけど……。とりあえず、イヴさんにメッセージで私の事情を説明するから、真珠はちょっと待っててね」


「わん……」


マリーの言葉に、真珠は項垂れたまま肯く。

マリーと真珠は復活したプレイヤーの邪魔にならないように部屋の隅に寄り、そしてマリーは口を開いた。


「ステータス」


マリーはステータス画面を出現させて、イヴへのメッセージを書き始めた。





イヴさん。今、私、デメリットスキル『大泣き』の効果で死んでもHP最大値が1の状態になってます……。

だから、幼児に突撃されても死ぬし、背中をバアン!! って叩かれても死んじゃうの……。

なので、今は、私と真珠に近づかないで貰えると嬉しいです。

私と真珠は、今度こそおうちに帰りたいの……!!





マリーはイヴへのメッセージを書き終えて送信した。


「イヴさん、私のメッセージ読んでくれるかなあ……?」


「くぅん……?」


「とりあえず、イヴさんに叩かれないように気をつけながら、もう一回教会を出ようっ」


「わんっ」


マリーと真珠は顔を見合わせて肯き合い、周囲を警戒しながら歩き始めた。


***


風月14日 朝(2時48分)=5月22日 0:48

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る