第五百八十三話 マリー・エドワーズと真珠は目覚めて一階に行き、カウンター前でノーマとノーマの父親と会い、グリック村に行くことになる



マリーは目を開けると、部屋の中は薄明るい。

父親のいびきが部屋に響き渡っている。

マリーは身体を起こして両親のベッドに視線を向けた。

ベッドには父親と母親が仲良く寝ている。

母親は、父親の大音量のいびきを至近距離で聞いているのに眠り続けていられるなんて本当にすごい。


マリーは寝巻に着替えさせられている。

目覚めた後もごろごろしていた真珠がマリーにすり寄ってきた。


「おはよう。真珠」


マリーは寝ている両親を起こさないように小さな声で真珠に言う。


「わううぅ。わうー」


真珠も小さな声でマリーに挨拶を返した。


「真珠。私、着替えて来るね。手鏡を出すからそれを見て待ってて。ステータス」


マリーはアイテムボックスから手鏡を取り出してベッドの上に置いた。

真珠は尻尾を振って手鏡を覗き込む。


マリーはベッドサイドに置いてある布のスリッパを履いてクローゼットに行き、寝巻から半袖のワンピースに着替えた。


マリーは脱いだ寝巻を畳んでベッドの端に置き、ベッドに座ってアイテムボックスから取り出した『疾風のブーツ』を履く。

そしてマリーは真珠に視線を向けて口を開いた。



「真珠。支度できたよ。手鏡、もうしまってもいい?」


「わん」


手鏡で自分の姿を眺めていた真珠は、マリーに肯いた。

マリーは真珠の頭を撫でて、ベッドの上に置いていた手鏡を左腕の腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納する。


「じゃあ、部屋を出ようね」


マリーは真珠に微笑んで言い、真珠はマリーに肯いた。

父親のいびきが響き渡り、母親が眠る部屋に、物音を立てないようにしながら居続けても退屈なだけだ。


マリーと真珠はなるべく足音を立てないように気をつけながら歩き、マリーは静かに扉を開けて部屋を出た。


マリーと真珠は段差の大きい階段を駆け下りて一階に向かう。


一階のカウンター前にはノーマとノーマの父親であり、グリック村の村長がいた。

ノーマはマリーと真珠に気づいて破顔する。


「マリーちゃん。シンジュくん。おはよう。朝早いから、会えないかと思った」


「おはよう。ノーマさん」


「わううぅ。わーう」


「もうグリック村に帰っちゃうの?」


首を傾げて問いかけるマリーにノーマは寂しそうな顔で肯く。


真珠はノーマと遊べないのだと思ってがっかりして項垂れた。

マリーは、今は金曜日の夜だから、ノーマの幼なじみのプレイヤーがログインしている可能性が高いと思った。

今、ノーマと一緒にグリック村に行けば、彼女の悩みを解決する手助けができるかもしれないと思いながら、マリーは口を開く。


「私と真珠もノーマさんと一緒にグリック村に行こうかな。真珠、いい?」


「わんっ!!」


「マリー、シンジュ。あなたたち、村長さんのご迷惑になるでしょうっ。帰りはどうするつもりなの?」


カウンター内にいる祖母が、グリック村に行こうとしているマリーと真珠を窘める。

帰りの手段を思いついているマリーは祖母を見つめて胸を張り、口を開いた。


「帰りは真珠と一緒に港町アヴィラの教会に死に戻るから大丈夫っ。私は聖人で、真珠は聖獣だから、怪我もしないから心配しないでっ」


「わんわんっ」


正確には『死に戻る』と状態異常から回復するのだが、NPCの祖母にそんなことを言っても理解してもらえないだろうと思ってマリーは大雑把に説明をする。


「そんなこと言っても、マリーとシンジュはまだ小さいんだから、村長さんやノーマちゃんの足手まといになってしまうわ」


尚もマリーと真珠を止めようとするマリーの祖母に、ノーマは口を開いた。


「マリーちゃんとシンジュくんにも荷馬車に乗ってもらえば安全です。一緒に行かせてもらえませんか?」


「お願いっ。お祖母ちゃん……っ」


「わうううっ」


ノーマに続いて、マリーと真珠も祖母を上目遣いで見つめておねだりする。

祖母は長く深いため息を吐いて、ノーマの父親であり、グリック村の村長を見つめる。


「村長さん。うちの孫娘と子犬を連れて行っていただけるのでしょうか?」


心配そうに祖母に問いかけられたグリック村の村長はマリーと真珠を見つめて口を開く。


「マリーさんとシンジュくんに一緒に来てほしいと願っているのは娘のノーマです。グリック村まで責任を持って連れて行きます」


「やったー!!」


「わおんーっ!!」


ノーマの父親の許可を得たマリーと真珠は大喜びした。

ノーマも嬉しそうに微笑んでいる。


「村長さん。ノーマちゃん。マリーとシンジュをよろしくお願いします」


祖母はカウンター内でノーマの父親とノーマに頭を下げた。


「マリーさんとシンジュくんのことは責任を持ってお預かりします。もう荷馬車は出発できる状態にしているんだ。行こう」


グリック村の村長は祖母に言葉をかけた後、ノーマとマリー、真珠を促して外に出た。


***


風月14日 早朝(1時20分)=5月21日 23:20



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