第五百八十一話 高橋悠里は転送の間で『アルカディアオンライン・プロジェクト』がプレイヤーの健康と日本の環境を守るために『歩き煙草と煙草の吸殻のポイ捨てを撲滅する』ことを知り、KP500を付与される



気がつくと、悠里は転送の間に立っていた。

今の悠里はゲームを始める前と同じ、パジャマ姿だ。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。『アルカディアオンライン・プロジェクト』からのお知らせがあります。お伝えしても宜しいですか? また、フレンドからのメッセージが来ています。ご確認ください」


「お知らせがあるの? 聞きます。フレンドからのメッセージは後で確認します」


「かしこまりました。では『アルカディアオンライン・プロジェクト』からのお知らせをお伝えします。『アルカディアオンライン・プロジェクト』はプレイヤーの健康と日本の環境を守るために『歩き煙草と煙草の吸殻のポイ捨てを撲滅する』ことを推進します」


サポートAIの突然のアナウンスに戸惑った悠里は瞬き、困惑しながら口を開いた。


「なんでいきなり歩き煙草と煙草の吸殻のポイ捨てを撲滅することになったの……?」


「『アルカディアオンライン・プロジェクト』スタッフが健康診断を受けに病院に行った際に、前を歩いている男性が、マスクをずらして歩き煙草をした上、煙草の火を地面の水たまりで消し、さらにその煙草を排水溝に落として捨てたところを目撃したことが切っ掛けです」


「うわあ。ひどい人がいるんだね……」


「マナーを守って煙草を楽しんでいる愛煙家もいるので、そのような愛煙家プレイヤーや煙草の原材料生産農家、煙草製造メーカーの助けになる場として、現在は『フローラ・カフェ』のみに繋がる場所にシガールーム『黄昏のひととき』を追加します。シガールーム『黄昏のひととき』の稼働日時は未定です」


「未定なのになんで今言ったの……?」


「そのように設定されたからです」


「そうなんだ。サポートAIさんも大変だね……」


「お気遣い頂き、恐縮です。話を続けても宜しいですか?」


「よろしいです」


「全プレイヤーに『歩き煙草の経験があるか?』『煙草の吸殻のポイ捨てをした経験があるか?』『受動喫煙の経験があるか?』を脳波チェックします」


「了解ですっ。私は歩き煙草もしてないし、煙草の吸殻のポイ捨てもしてないですっ。『じゅどうきつえん』ってなんですか?」


「『受動喫煙』とは『喫煙者でないのに煙草の煙を吸い込んでしまうこと』です。喫煙者より受動喫煙者の方が肺にダメージを受ける場合があるとも考えられています」


「そうなの!? 『じゅどうきつえん』したら、煙草吸って無いのに肺とか汚れちゃったりするの!?」


「左様です」


「ひどい。悲しい……。私、小学校低学年の時、スーツ着て歩き煙草をしてた男の人に後ろから追い抜かれて、その人が吸ってた煙草の煙が流れて来て顔面に直撃したことある……」


「確認します。プレイヤーNO178549。高橋悠里様の脳波確認。確認中……。トゥルース。高橋悠里様に500KPが付与されます」


「えっ!? 今なんで私、KPを貰えたの!?」


「高橋悠里様が『今も歩き煙草による受動喫煙の体験で傷ついている』とワタシが判断しました」


「そっか。ありがとう。サポートAIさん。KP貰えてラッキーだと思わなくちゃなのかもだけど、でも知らない人が吸った煙草の煙が顔面に直撃するのはもう嫌だ。今は新型コロナが蔓延してるせいで皆マスクしてて、煙草吸いながら歩いている人とかあんまり見ないけど」


「愛煙家が『歩き煙草をしない』『煙草の吸殻をきちんと始末した』場合はそれぞれGP1が付与されます。喫煙者が『歩き煙草をした』『煙草の吸殻をポイ捨てした』場合はプレイヤー善行値が大幅に下がり、悪質な場合はアカウントを凍結します」


「そうなんだ。じゃあ『アルカディアオンライン』でゲーム内通貨をリアルマネーに変換したい人とか『アルカディアオンライン』をプレイし続けたい人は歩き煙草も煙草の吸殻のポイ捨てもしなくなるかもしれないね」


「高橋悠里様の仰る通りになるように『アルカディアオンライン・プロジェクト』スタッフ一同も願っています」


「お知らせって歩き煙草と煙草のポイ捨てのことだけですか?」


「左様です」


「じゃあ、私、フレンドからのメッセージを確認しますね。ステータス」


悠里はステータス画面を出現させた。


***


高橋悠里の現在のKP(傷ついたポイント)10KP → 510KP



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