第五百七十五話 高橋悠里は強制ログアウトしてすぐにゲームにログインし、目覚めたマリー・エドワーズと真珠はクレムに抱っこされていて驚く
悠里が目を開けると、祖父の顔が目の前にあった。
え? 今、西の森の最奥にたどり着いたはずなのに……。
「悠里、起きたか。風呂が空いたぞ」
「……え?」
お風呂?
そう思った直後、悠里は自分が強制ログアウトしてしまったことを認識する。
祖父は言いたいことを悠里に伝え終えて満足し、部屋を出て行った。
「嘘でしょ!? マリーと真珠が寝ちゃったらクレムが困る……!!」
ひとり残された悠里は叫ぶ。
「急いでゲームに戻らなくちゃ……っ!!」
悠里は目を閉じ、呼吸を整える。
「『アルカディアオンライン』を開始します」
サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。
気がつくと、悠里は転送の間にいた。
「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」
「私ちょっと急いでるので、もう行きますね!!」
「行ってらっしゃい。高橋悠里様。素敵なゲームライフをお送りください」
サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。
マリーが目覚めると、クレムの右腕で抱っこされていた。
真珠はクレムの右腕で抱っこされている。
「えっ!? なんで私と真珠、クレムに抱っこされてるの!?」
「マリーと真珠が強制ロ……じゃなくて突然寝たから、俺が抱っこして列を進もうと思って」
クレムは錬金を頑張った結果、種族レベル経験値を獲得して種族レベルが上がったのでSTR値も上がり、マリーと真珠をそれぞれ片腕に抱っこできる腕力を手に入れていたのだ。
「わうう、わうううう!!」
真珠はクレムに抱っこされて嬉しくて『ありがとう』とお礼を言う。
クレムは真珠に微笑んだ後、マリーに視線を向けて口を開いた。
「家族に身体を揺らされたんだろ? すぐに戻ってきたけど、用事とか大丈夫か?」
「お祖父ちゃんがお風呂が空いたって知らせてくれたの」
「すぐに目覚めたってことはまだ風呂、入ってないんだよな? 入ってくれば? 俺がマリーと真珠を抱っこして列を進んでおくから。風呂なんて、5分とか10分あれば入れるだろ?」
「入れないよ!! 無理!! 私、髪長いからドライヤーで乾かすの時間かかるし!!」
「マジか。髪長いのって面倒くさいんだな。切れば?」
「切らないよ。クレムは潔すぎ……。とりあえず『こおうのりょういき』でゴミ……じゃなくて落ちているいろんな物を拾ってクレムに渡すまではゲームするから。だから下ろして」
「了解」
クレムはそう言ってマリーを地面に下ろした。
それから、クレムは真珠に視線を向けて口を開く。
「真珠も地面に下りるか?」
真珠はクレムに抱っこし続けてほしかったので、首を横に振った。
マリーはクレムに抱っこされている真珠の頭を優しく撫でて苦笑する。
「真珠はクレムに抱っこしてほしいんだねえ。甘えっ子真珠だね」
「きゅうん」
「よしよし。真珠は軽いし、このまま抱っこしてやるからな」
クレムは甘えた声を出す真珠の背中を優しく撫でて微笑む。
マリーたちのすぐ前に並んでいる女性プレイヤーが真珠に視線を向けた。
外見は10代前半、皮製品を装備していて、腰の皮ベルトに短剣を挿している。
「いいなあ。モフモフ、羨ましい……」
「フレンドじゃないプレイヤーをあんまり見るなよ。プレイヤー善行値が下がるぞ」
女性プレイヤーの隣にいる男性プレイヤーが彼女を窘める。
彼の外見は20代に見え、金属系の鎧を身につけ、背中に剣を背負っていた。
「わたしも、今度こそ絶対、あーいう可愛い子犬をゲットするんだっ。子狼王っていうモンスターが可愛いんだよね?」
「そういう噂だけど。でも四つん這いにならないと子狼王がいるフィールドに行けないのキツいな」
前に並んでいるプレイヤーたちの会話はマリーとクレムの耳には入らず、真珠は聞こえていたけれどスルーした。
***
風月13日 夕方(4時55分)=5月21日 20:55
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