第五百七十二話 マリー・エドワーズはクレムにデメリットスキル『覗き魔』の話を聞く
パーティー組んだマリーと真珠、クレムはお喋りをしながら教会を出て『孤王の領域』に行くために西の森を目指す。
青空の下、風月の時にだけ吹く柔らかい風を受けて歩くのは心地いい。
「あっ。そうだ。オレ、マリーに言おうと思ってたことがあるんだ」
クレムがそう言ってマリーを見た。
「マリー。『エリア・インビジブル』を使って男湯のぞいたらダメだからな」
クレムの唐突な発言に、マリーはげんなりして口を開く。
「クレム、なんで私が男湯のぞくと思ったの? そもそも『アルカディアオンライン』って温泉とか銭湯、あるの?」
「港町アヴィラには、船乗りが使う銭湯があるんだって。でもセーフティ機能をOFFにしてるプレイヤーしか使えなくてさ。オレのフレンドは未成年でセーフティ機能をOFFにできないんだけど『インビジブル』を使ってカウンターにいるNPCの目を掻い潜り、女湯に特攻したらしいんだよ。『女湯を覗くのは男のロマンだ!!』っていつも言ってたから、有言実行ってやつ?」
女湯を覗くのは、ロマンではなく痴漢であり犯罪行為だと思いながら、マリーは口を開いた。
「男子って覗きとか好きだよね。私の幼なじみもギャルゲーのお風呂覗きイベントとか温泉覗きイベントとか絶対に覗きに行ってた。覗く前にセーブはしてたけど……」
「くぅん?」
真珠は『のぞき』がわからなくて首を傾げる。
首を傾げる真珠が可愛くて癒され、マリーは真珠を抱き上げてぎゅっと抱きしめた。
「真珠も男子だけど、覗きとかしないもんね。偉いね」
「わんっ」
真珠は『のぞき』がよくわからないまま、でもマリーに『偉い』と褒められて嬉しかったので肯いた。
クレムが話を続けるべく口を開く。
「そうしたらさ、女湯にいた全員の身体にモザイクが掛かってた上に、デメリットスキル『覗き魔』を付与されたんだって。『覗き魔』でいいから女の裸が見たかったって、そいつ泣いてた」
「なんでクレムはそんなどうしようもないプレイヤーとフレンドなの……?」
「面白い奴なんだよ。オレは取り澄ました賢い奴より、バカな奴の方が好きだ」
「まあ、人の好みはそれぞれだけど……。ねえ。デメリットスキル『覗き魔』ってどんな効果があるの?」
「『性別が女のNPCの初期友好度がマイナス10される』らしい。男湯を覗いたら、たぶん性別が男のNPCの初期友好度がマイナス10されるんじゃね?」
「覗きをしたら、NPCからモテなくなるんだね……」
「デメリットスキル『覗き魔』のスキルレベルを上げなければ、挽回可能な感じだからなんとかなるだろ。でも、マリーがそいつと同じ目に遭ったら可哀想だからさ、忠告しとこうと思って」
「お気遣いありがとう……。でも私、覗きとかしないから……」
男湯を覗く幼女。……最悪だ。
そんなことをしたら、真珠の主として胸を張れない。恥ずかしい……。
大好きな要とも顔を合わせられない。最悪、フラれてしまうだろう……。
マリーはそう考えた直後、口を開いた。
「でもなんで、お風呂に入るのにセーフティ機能をONにしてたらダメなんだろうね? 男主人公は男湯に入って、女主人公は女湯に入れば良くない? お風呂好きなのは、大人も子どもも一緒だよね?」
「主人公の性別とプレイヤーの性別が一致するとは限らないし、セーフティ機能をONにしてると、裸にモザイク掛かるからじゃね? モザイク掛かってるところとか触れないらしいぜ」
「そうなんだ。私、肌着とか下着とかずっと同じの履いてて裸になったこと無いからモザイク掛かってるところとか触れないって知らなかった」
家族等に寝巻に着替えさせられたことはあるけれど、その時はマリーはログアウト中で眠っているので自分の裸を見ていない。
裸にモザイクが掛かるのはセーフティ機能をONにしているプレイヤーだけで、NPCは裸にモザイクが掛からないことはマリーも知っている。
真珠の性別をNPCのマリーの祖父が確認した時に、知ったのだ。
マリーの言葉を聞いたクレムは表情を曇らせて口を開く。
「ゲームだから汚れないとはいえ、同じパンツ履き続けてるのって改めて考えると気持ち悪いな……」
「うん……」
マリーとクレムは雑談をしながら歩き、マリーに抱っこされた真珠はマリーとクレムの雑談を聞いて肯いていると西門が見えてきた。
空は青空から夕暮れの色に変わっている……。
***
港町アヴィラの私営浴場は、船乗りだけでなく酒場の酔客や娼館につとめる娼婦も利用する。
私営浴場の常連になると『混浴』の浴場を利用することができ、セーフティ機能をOFFにして『混浴』の浴場を利用しているプレイヤーには言動次第で大人のR18クエストが発生することもある。
***
風月13日 夕方(4時15分)=5月21日 20:15
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