第五百六十九話 マリー・エドワーズは真珠に錬金武器『聖人殺しの短剣』のおそろしさを説明し、バージルから届いた二通目と三通目の一斉送信メッセージを読む



「文脈から類推すると、真珠くんはマリーさんに『殺されても死に戻るから心配はいらない』というようなことを言いたいのでは?」


マリーに真意が伝わらなくて涙目になった真珠を見かねて情報屋がそう言うと、真珠は頭がもげると思うほどに激しく首を縦に振る。

マリーは首を縦に振り続けている真珠を見つめて口を開いた。


「真珠。そうなんだね。でもね、錬金武器『聖人殺しの短剣』っていうすごく怖い武器で攻撃されると私、死に戻れないんだよ」


「くぅん?」


「教会に死に戻れなくて、そのまま死んじゃうの……。寝たまま動かなくてもう二度と起きないって言ったらわかる?」


「ぎゃわんっ!!」


真珠はマリーの言葉を理解して、怖くなって恐怖で震える。

真珠はマリーと一緒に寝て、マリーと一緒に起きる。

真珠もマリーも寝たまま、起きられないのは嫌だ……!!


「真珠。怖がらせてごめんね」


マリーは涙目で震える真珠を抱きしめて彼の頭や背中を優しく撫でた。

その直後、マリーと情報屋それぞれに、フレンドからのメッセージが届いた。

フレンドからのメッセージの確認をしていた情報屋は新着のメッセージに素早く目を通し、マリーは真珠を慰めながら、もたもたとメッセージを確認した。

マリーと情報屋に届いたのは、またしてもフレンドのバージル・トムソンからの一斉送信メッセージだった。





急募!! エロに流されないフレンド求む!!

なんで救援にきたはずのフレンドが悪の美女の側に寝返るんだよ!!

『モイラ・レッドモンド』が勝利したら、濃厚なディープキス、大人にはさらに濃密な甘い時間を過ごさせるって言葉に流され過ぎだろ!!





マリーは殴り書きのようなバージルのメッセージを読み終え、情報屋の様子を窺う。

情報屋はマリーの視線に気づいて苦笑し、口を開いた。


「マリーさんにもバージルさんからの一斉送信メッセージが来ましたか?」


「はい。『エロに流されないフレンド求む!!』って書いてありました……」


「ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』のクエスト達成条件は『モイラ・レッドモンドの殺害』と記載されていますが、モイラ・レッドモンド側の勝利条件はどのようなものなのか気になります」


「バージルさんのメッセージに書いてあった『モイラ・レッドモンドに寝返ったプレイヤー』に、モイラ・レッドモンドに関わる固有クエストが発生してるとか?」


「マリーさんの仰る通りかもしれませんね。私のフレンドに確認を取ってみます」


情報屋がそう言って作業を始めた直後にマリーと情報屋それぞれに、フレンドからのメッセージが届いた。


「バージルさんからのメッセージですね」


情報屋がメッセージの内容を確認しながら言う。

マリーも真珠の頭を撫でながらバージルからのメッセージを確認した。





青龍出た!!





ただ、その一言だけが書いてあった。


「バージルさん……。大変そう……」


「くぅん?」



真珠はマリーが力尽きた時に颯爽と現れて、真珠とマリーを抱っこして領主館前に連れて行ってくれたバージルが好きなので『バージルが大変そう』だと聞くと心配になる。

でも、マリーと真珠が死ぬかもしれないという危ないところには行きたくない……。


フレンドとメッセージをやり取りをしていた情報屋がマリーと真珠に視線を向けて口を開いた。


「マリーさん。マリーさんの考えは正しかったようですよ。『モイラ・レッドモンドに寝返ったプレイヤー』に固有クエストが出ているようです」


「そうなんだ……っ。どんな固有クエスト……やっぱりなんでもないです……」


情報屋に情報料を払いたくないマリーは好奇心を押し殺して口をつぐみ、真珠の顔を覗き込む。


「真珠。もう怖くない? 情報屋さんのお仕事の邪魔になるから帰ろうと思うんだけど、大丈夫?」


「わんっ」


真珠はマリーの言葉に肯いた。

もう涙は出ないし、身体も震えていない。真珠は、今は怖くない。


「じゃあ行こっか。真珠。情報屋さん。お邪魔しましたっ」


「気をつけて帰ってください」


情報屋に見送られ、マリーと真珠は『ルーム』を出た。


***


風月13日 昼(3時38分)=5月21日 19:38



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