第五百六十八話 マリー・エドワーズはフレンドのバージル・トムソンからのメッセージを確認した後、真珠の言葉の正しい意味を読み解けずに苦戦する



マリーにメッセージを送ってきたのはフレンドのバージル・トムソンだった。

彼はマリーがウェインと一緒に広場にいた時に出会い、その後、マリーが真珠と共に領主館を目指して歩いたが力尽きた時に再会して、フレンド登録をした。

筋肉が自慢で『アルカディアオンライン』で一攫千金を目指す男だと自称している。


「情報屋さんもバージルさんからメッセージ、来ました?」


情報屋はマリーの言葉に肯き、口を開いた。


「はい。フレンドへの一斉送信メッセージでした」


バージルはマリーが情報屋に紹介した縁で、情報屋ともフレンドになった。

プレイヤーがフレンドへの一斉送信メッセージを使う時は、そのプレイヤーが危機に陥っている時や人手が欲しい場合である可能性が高い。

マリーはバージルからのメッセージを表示させた。





このメッセージはフレンドに一斉送信している。


俺は今、ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』でボス敵の『モイラ・レッドモンド』と戦っている。

これは愛と人権を守るための戦いだ。絶対に負けるわけにはいかない!!


プレイヤーの数の力で『モイラ・レッドモンド』を追い詰めたところで、奴が転送魔方陣から巨人を召喚したんだ……!!

形勢はプレイヤーが不利だ。頼む!! 今ログインしているフレンドで、戦える奴は『転送の間』の魔方陣を使ってヘヴン島に来てくれ!!





マリーはバージルからのメッセージを読み終え、首を傾げた。


「『愛と人権を守るための戦い』ってどういうこと……?」


「わうー。くぅん?」


ステータス画面やメッセージ内容を視認できず、文字も読めないテイムモンスターの真珠が、不安げにマリーを見つめる。

マリーは真珠にバージルからのメッセージの内容を説明した。


「バージルさんがすごく困ってるみたいなんだけど、でもボス敵の『モイラ・レッドモンド』はすごく怖い武器を持っててね。力を貸したい気持ちはあるんだけど、でも、怖い武器で攻撃されたら、私、死んじゃうかもしれないんだよ……」


「わうー、わうううう、わうっ」


真珠は、マリーが『死に戻り』すれば大丈夫だと伝えて尻尾を振る。

真珠はマリーが死んでも教会に戻ることを知っているのだ。

真珠の言葉を聞いたマリーは瞬いて、口を開いた。


「え……? 『私』が……『わうううう』で『椅子』……?」


「ぎゃわんっ!!」


マリーに真珠が言いたいことが全く伝わっていない……!!

自分の意図がマリーに伝わらないことが悲しくて、真珠はしゅんとして項垂れた。


「真珠の元気がなくなっちゃった……っ。えっと、えっと……『わうううう』は……っ」


マリーは真珠が言ったことを理解しようと考えを巡らせたが、全く思いつかなくて途方に暮れる。

マリーと真珠の会話を聞いていた情報屋が口を開いた。


「文脈から察するに『わうううう』は『死に戻り』ではないですか?」


「わんっ!! わんわんっ!!」


情報屋の言葉を聞いた真珠は青い目を輝かせ、尻尾を振って何度も肯く。


「情報屋さん、すごいっ。正解みたいっ。じゃあ、『私』が『死に戻り』で『椅子』?」


「ぎゃわんっ!!」


マリーは真珠の『わう』を『椅子』としか考えられない!!

真珠は必死に首を横に振った。今言った『わう』は『椅子』ではなく『する』なのだ……!!



***


風月13日 昼(3時26分)=5月21日 19:26



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