第五百六十三話 高橋悠里は強制ログアウトした直後にユリエルへのメッセージを送るためにログインし、プレイヤーが著しい体調不良になった場合はサポートAIが救急車を呼ぶことを知る



悠里が目を開けると、母親の顔が目の前にあった。


「悠里。晩ご飯作ったわよ。通販で買って忘れ果てていた牡丹鍋よ」


「今、ユリエル様へのメッセージを書いてる途中だったのにー!!」


「じゃあ、メッセージを書き終わったらご飯食べにダイニングに来なさいね」


自分も『アルカディアオンライン』のプレイヤーとしてゲームを楽しんでいる母親は悠里の魂の叫びを正しく理解して、部屋を出て行った。

悠里は目を閉じ、呼吸を整える。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。


気がつくと、悠里は転送の間にいた。

今すぐにユリエルにヘヴン島にいる『モイラ・レッドモンド』というNPCがプレイヤーの主人公を殺すことができる錬金武器『聖人殺しの短剣』を所持していると伝えなければ……!!


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」


「私ちょっと急いでるので、挨拶とか省きますっ。ステータス!!」


悠里はステータス画面を出現させてユリエルへのメッセージを書き始めた。





ユリエル様。今、ヘヴン島にいますか?

ヘヴン島にいるNPCの『モイラ・レッドモンド』というNPCがプレイヤーの主人公を殺すことができる錬金武器『聖人殺しの短剣』を所持していると情報屋さんから聞きました。

ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』に参加する時は気をつけてください……!!





悠里は急いでそう書いて送信した。


「ユリエル様、私のメッセージ読んでくれるかなあ。さっき送ったメッセージに返信も無いし……。サポートAIさん。フレンドに緊急で伝えたいことがある時ってどうしたらいいですか?」


「『フレンド機能』によるメッセージによるやり取りをしてください。『アルカディアオンライン』をプレイすることによってプレイヤーの生命・身体に危険が及ぶことはなく、プレイヤーの体調が著しく変化した場合は強制ログアウトさせ、ワタシが救急車を呼びます」


「そうなんだ……」


それなら、リアルで連絡を取るしかない。

要も晩ご飯を食べるためにゲームをログアウトしているのかもしれないと思った悠里はサポートAIに挨拶をしてログアウトした。


悠里が目を開けると、自室の天井が視界に映る。


「要先輩にメッセージを送らなきゃ……っ!!」


悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。

それからゲーム機の電源を切った。

ヘッドギアとゲームをつなぐコードはそのままにしておく。

それから悠里はスマホを手にして要へのメッセージを書き始めた。





要先輩。ゲーム内でもメッセージを送ったのですが、ヘヴン島にいるNPCの『モイラ・レッドモンド』というNPCがプレイヤーの主人公を殺すことができる錬金武器『聖人殺しの短剣』を所持していると情報屋さんから聞きました。

ワールドクエスト『ヘヴン島の女王 ヘヴン島の覇権をめぐる攻防』に参加する時は気をつけてください……!!





悠里は要へのメッセージを送信して息を吐く。


「要先輩、私のメッセージに気づいてくれるかなあ? 直電してみようかな……」


悠里は少し迷った後、要に直電した。

コール音を聞きながら、悠里は要が通話してくれることを祈った……。



***


風月13日 朝(2時05分)=5月21日 18:05



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る