第五百五十八話 マリー・エドワーズと見物客は真珠が王冠の絵を三つ揃える様を見守ったが、コイン1枚しか出てこない



「真珠の丸椅子も、今出すからね」


マリーの言葉に真珠は尻尾を振りながら肯く。

食堂の客の一部から注目を浴びながら、マリーはアイテムボックスから真珠の丸椅子を取り出してスロットマシーンの前に置く。

真珠は身軽に丸椅子にジャンプして座り、丸椅子の滑らかな木の感触を楽しみながら尻尾を振った。


「ヘヴンズコインを1枚出して……」


マリーはそう呟きながら、アイテムボックスからヘヴンズコインを1枚取り出す。

食堂の隅で何もない空間から次々に物を出す、奇術師のような幼女を見て食事を待っていた客が席を立ち、マリーと真珠の周囲に集まり始めた。


マリーが手にしたヘヴンズコイン1枚を、スロットマシーンのコイン投入口に入れるとスロットが回り出す。

スロットマシーンが賑やかな音を立てると見物客からどよめきが起きた。

真珠はスロットマシーンの丸いボタンに右の前足に置き、真剣なまなざしでスロットを見つめる。

マリーは両手の拳を握りしめて真珠を見守った。


スロットは回る、回る、回る……ここだ!!

真珠は右の前足でスロットマシーンのボタンを押した。

一番左端のスロットが止まる。

『王冠』が出た……!!

だが、一番左端のスロットで王冠が出ただけでは、今の真珠は浮かれはしない。

三つの絵が揃って初めて、ヘヴンズコインがたくさん出てくると真珠は知っているのだ。


真珠は回転するスロットを真剣に見つめる。

真珠の目は回転するスロットの王冠の絵を捉えた!!

真珠は狙いすまして右の前足でスロットマシーンのボタンを押す。

真ん中のスロットが止まった。

『王冠』が出た……!!

王冠の絵が二つ揃ったのを見てマリーと見物客が歓声をあげる。

真珠も嬉しくなったが、気を引き締めた。

あと一つ『王冠』を出さなければいけない。


「真珠。頑張れ……っ!!」


「子犬、いけるぞ……っ!!」


マリーと見物客のひとりがそれぞれに真珠を応援する。

真珠は回転するスロットから目を離さずに肯き『王冠』を狙う……!!


スロットは回る、回る、回る……ここだ!!

真珠は右の前足でスロットマシーンのボタンを押した。

一番右端のスロットが……止まる。

出た絵柄は……『王冠』だ!!


「わうわん、わうっ!! わおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!」


真珠は嬉しくて吠えた。

スロットマシーンのコイン受け取り口には音を立ててヘヴンズコインが流れ出る……はずだった。


「コインが出ない……?」


マリーがスロットマシーンのコイン受け取り口を手で探る。

コイン受け取り口にあったのは、ヘヴンズコイン1枚だけだった……。


『王冠』が三つ揃った『当たり』の賑やかな音を立てていたスロットマシーンが静かになる。

白けた見物客たちが、それぞれ食堂の席に戻っていく。


「真珠。コイン1枚しか出なかったよ……」


「きゅうん……」


マリーの言葉を聞いた真珠は項垂れた。

真珠はすごく頑張ったのに。『おうかん』を三つ揃えたのに……。

真珠の耳がぺったりと頭にくっつき、尻尾がだらりと垂れ下がる。


「スロットマシーン、壊れちゃったのかなあ……? まだちょっとしか使ってないのに」


スロットマシーンの見た目は綺麗で、壊れているようには見えない。


「情報屋さんにスロットマシーンを直す方法、聞いてみよう」


情報屋はピザのレシピも手に入れてくれたので、スロットマシーンもきっと直してくれるだろう。

マリーがそう思った直後に可愛らしいハープの音が鳴った。

フレンドからのメッセージが来たようだ。


***


風月13日 早朝(1時24分)=5月21日 17:24



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