第五百五十四話 マリー・エドワーズは固有クエスト『塩を安価に、庶民の手に!!』のクエスト内容を確認して愚痴る
「ノーマさん。私、ノーマさんの幼なじみの人に会って話をしてみたい。プ……じゃなくて聖人同士、通じ合うものがあるかもしれないから」
マリーはノーマさんの幼なじみのプレイヤーとフレンド登録をして、ノーマに知られないようにプレイヤー同士の会話をしたい。
ノーマの前ではプレイヤーが憑依前のNPCの性格を模倣してほしいと頼むつもりだ。
「本当? マリーちゃんは私の言葉を信じてくれるの?」
不安げに言うノーマにマリーは肯いた。
「聖人になった人は、病気になる前と後で、性格が変わることもあるんだよ。でも、病気になる前の記憶はちゃんとあるの。ノーマさんとの思い出もちゃんとあるよ。私も、聖人になる前の記憶はちゃんと覚えてる」
「そうなの。よかった……」
ノーマはうるんだ目を瞬かせて、か細い声で言う。
ノーマがまとう雰囲気が緩んだ直後、マリーの祖母が木のトレイにマリーと真珠の食事と、三人分の飲み物を乗せて食堂に現れた。
「マリー。シンジュ。長く眠っていたからお腹が空いているでしょう? ご飯を食べなさい。ノーマちゃんは晩ご飯を食べたから飲み物だけ用意したけど、何か食べる?」
「いえ、飲み物だけ頂きます」
ノーマは祖母にそう言って微笑む。
マリーは自分も飲み物だけでいいと思ったが、わざわざ食事の用意をしてくれた祖母にそんなことは言えなかった……。
ノーマの前にはミルクが入った木のコップが置かれた。
マリーの前に黒パンと野菜のスープ、ミルクが入った木のコップが置かれ、真珠が座っている丸椅子の前に野菜のスープが入った平皿と、ミルクが入った平皿が置かれた。
真珠は座っていた丸椅子から飛び下り、ミルクが入った平皿に鼻を寄せて匂いを嗅いだ後、ミルクを舐め始める。
多忙な祖母は料理をテーブルに置いてすぐに、食堂にいる客たちに声を掛けに行った。
うんざりした顔で黒パンと野菜のスープを見ているマリーに、ノーマは首を傾げて口を開く。
「マリーちゃん。お腹が空いてないの?」
「うちのご飯、味が薄くて食べたくないの。黒パンはまずいし……」
マリーは祖母が客の応対をしているのを確認して、黒パンを左腕の腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納した後に言葉を続ける。
「ここは港町で海が近いのに、なんでうちが塩をケチる羽目になってるのかわかんない……」
「うちの村は領主様から塩を貰っているのよ。野菜の塩漬けをしたり、肉を塩漬けにしたりして保存食を作って、それを領主館に納めているわ」
「えっ!? そうなの!? 私、ユリエル様に聞いてみる!!」
領主の子息であるユリエルが暮らす領主館で出される料理は、塩味も甘味もちょうどよくておいしい。
領主館とノーマが暮らすグリック村だけが豊富な調味料でおいしいご飯を食べているとしたら、ずるい!!
マリーがステータス画面を出現させてユリエルにメッセージを書いていると、サポートAIの声が響く。
「条件を満たしましたのでマリー・エドワーズに固有クエストが発生しました。
尚、このクエストは強制受注になります。
詳しくはステータス画面の『クエスト確認』をご確認いただくか、転送の間でサポートAIにお尋ねください」
「えっ!? 今、固有クエストが発生した……っ!?」
サポートAIのアナウンスに驚いたマリーがそう言うと、サポートAIのアナウンスが聞こえないノーマと真珠は首を傾げる。
固有クエスト発生のアナウンスは当事者のプレイヤーにしか聞こえない仕様なのだ。
マリーはユリエルへのメッセージを書くのをやめ、ステータス画面の『クエスト確認』をタップした。
新たな画面が表示される。
♦
汎用クエスト 固有クエスト【NEW】 ワールドクエスト
♦
マリーは『固有クエスト』の部分に触れた。
マリーの『固有クエスト』の一覧が表示され、その中から『塩を安価に、庶民の手に!!』という名のクエストを見つけてタップした。
新たな画面が表示される。
♦
クエスト名 塩を安価に、庶民の手に!!【NEW】【強制受注】
塩を安価に庶民が手に入れられるようにするために、頑張ろう!!
クエスト発生条件
マリー・エドワーズが庶民が塩が少ない薄味の食べ物を食べている中、港町アヴィラの領主館とグリック村では塩を潤沢に使用していると知る
クエスト達成条件
庶民が塩を安価に手に入れられるようになる。
♦
「なんかめちゃくちゃアバウトな固有クエストが発生したんですけど……」
固有クエスト『塩を安価に、庶民の手に!!』のクエスト内容を確認したマリーは愚痴る。
「こゆうくえすと?」
「くぅん?」
ステータス画面を視認できないNPCのノーマとテイムモンスターの真珠は揃って首を傾げた。
マリーはノーマと真珠に説明する言葉を探して視線をさ迷わせ、口を開く。
「ええと、神様みたいな存在から頼まれごとをしたの……」
「マリーちゃん。すごいわ……!!」
「わうー。わうう!!」
マリーの怪しいアバウトな説明を疑うことなく、ノーマと真珠が目を輝かせる。
マリーは適当な説明をした罪悪感をごまかすために、薄味の野菜スープを食べ始めた。
***
風月12日 真夜中(6時53分)=5月21日 16:53
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