第五百四十六話 高橋悠里と祖母は『レディ・ローズ』の薔薇のチョコレート菓子を食べて、空き箱を取っておくことにする



祖母の手作りミニパンケーキを食べ終え、母親が淹れてくれたカフェオレを飲み終えた悠里は、要から貰った『レディ・ローズ』の蓋を開けていない細長い形の箱に視線を向けた。

この箱の中身はおそらく『レディ・ローズ』という名前の三種類のチョコレートで形作られた薔薇だと思う。


「『レディ・ローズ』のチョコレート。懐かしいわね」


ミニパンケーキを食べる手を止め、祖母が『レディ・ローズ』の箱を見て呟く。


「お祖母ちゃんは『レディ・ローズ』を知ってるの?」


「ええ。自分へのご褒美にこっそり買ったことがあるのよ」


「そうなんだ。お祖父ちゃんには内緒で?」


「そう。お祖父ちゃんには内緒で。だって、チョコレートが3000円以上するなんて、お祖父ちゃんにはとても言えないわ。でも、買ったのは一度だけよ」


「そうなんだ」


いつも祖父のことを立てて控えめに生きている祖母の内緒話を微笑ましく思いながら、悠里は『レディ・ローズ』の細長い形の箱の蓋を開けた。

可愛らしい箱の中には、左から順番にダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートで花びらが作られた薔薇が並んでいる。


悠里と祖母はチョコレートの薔薇を見て顔を綻ばせる。

薔薇のチョコレートを見つめていた祖母は、悠里に視線を向けて口を開いた。


「要先輩は素敵な贈り物をしてくれたわね。よかったわね。悠里」


「うん。でもこんな高いチョコ貰っちゃって申し訳ないなって思うよ」


「そうね。じゃあ、今度、要先輩の好きなお菓子を作ってプレゼントするのはどう?」


「お祖母ちゃん、手伝ってくれる?」


悠里は一人でお菓子を作る自信は全く無い。

いつも祖母が作ってくれるおいしいお菓子を食べる専門だったからだ。

不安げに言う悠里に、祖母は微笑んで肯いた。


「お祖母ちゃんと一緒なら、頑張る。要先輩に好きなお菓子を聞いてみるね」


悠里はそう言った後、左から順番にダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートで花びらが作られた薔薇が入った『レディ・ローズ』の細長い形の箱を祖母の方に押しやる。


「お祖母ちゃん。どのチョコを食べたい? 要先輩が『お祖母ちゃんへのお礼に』って言ってたから一番最初に好きな薔薇のチョコを選んで」


「いいの?」


「うん。その代わり、残った二個は私がひとりで食べるよ」


「お母さんにはあげないの?」


「あげないっ。私は今日、おやつを食べた後の食器洗いを頑張るから、自分の食器すら片づけないお母さんにはあげませんっ」


憤然と言う悠里に祖母は苦笑して、それから三つの薔薇のチョコレートを見つめる。

迷った末に、祖母が手に取ったのは箱の一番左端に入っているダークチョコレートの薔薇の花を手に取った。


「私はこのチョコレートをもらうわ」


「わかった。じゃあ、私は残りの二つを食べるね」


祖母はダークチョコレートの薔薇の花を嬉しそうに見つめた後、口に入れた。


悠里はミルクチョコレートで花びらが作られた薔薇を最初に食べるか、それともホワイトチョコレートで花びらが作られた薔薇を最初に食べるか迷ったが、ミルクチョコレートで花びらが作られた薔薇を最初に食べることにした。


「お祖母ちゃん。薔薇の花びらを一枚ずつ剥がして食べるのってダメかなあ?」


「私もそうしようと思ったこともあったけど、せっかく綺麗に咲いているのにと思うとできなかったわ」


「そっか。じゃあ、私も一気にひとくちで食べることにする……っ」


悠里は意を決してミルクチョコレートで花びらが作られた薔薇を口に入れた。

ふんわりと甘いチョコレートの香りがして、まろやかな甘さが口に広がる。

すごくおいしい……!!


「やっぱり『レディ・ローズ』のチョコレートはおいしいわねえ」


しみじみと言う祖母に、悠里は何度も肯いて同意する。

口の中からミルクチョコレートの味が完全に消え去るまで味わって、悠里はため息を吐いた。


「チョコ、食べ終わっちゃった……」


「悠里はもう一個食べられるでしょう? お母さんに見つからないうちに食べてしまいなさい」


「うんっ」


悠里は祖母に肯き、最後に残ったホワイトチョコレートで花びらが作られた薔薇を手に取り、口の中に入れた。

すごくおいしい!!


悠里はホワイトチョコレートの味が完全に消え去るまで味わって、空の箱を見た。


「箱、どうしよう? 捨てたくないけど、使い道とかあるかなあ?」


「私も一か月くらい『レディ・ローズ』の空箱を取っておいたんだけど、結局使い道が思いつかなくて捨ててしまったの。でも悠里は使い道を思いつくかもしれないから、捨てたくなるまでは取っておいたら?」


「そうする。じゃあ、空き箱を部屋の引き出しにしまってくるね。こっちの正方形の箱にはすごくおいしいマカダミアナッツのチョコレートが入ってるから、お祖母ちゃん食べていいよ」


「ありがとう。遠慮なくいただくわね」


祖母は正方形の箱からマカダミアナッツのチョコレート菓子を一粒つまむ。

悠里は『レディ・ローズ』の空箱を持って自室に向かった。





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