第五百四十四話 高橋悠里は帰宅して着替え、要から貰った『レディ・ローズ』のマカダミアナッツのチョコレート菓子を祖父と一緒に食べる
悠里は家まで送ってくれた要の姿が見えなくなるまで見送って、家の中に入る。
「ただいま……!!」
玄関で悠里が元気よく言うと、祖母と母親が出迎えるために姿を現す。
「おかえりなさい。悠里」
「おかえり。お弁当、おいしかった?」
「うんっ。要先輩も喜んでくれたよっ」
出迎えてくれた祖母と母親に、悠里は笑顔で答える。
嬉しそうに言う悠里に祖母は微笑み、口を開いた。
「そう。よかった」
「要先輩って誰?」
母親が首を傾げて問いかける。
「これ、エコバッグ!! 空っぽのプラスチック容器が二つ入ってるから!! じゃあ、私、鞄を部屋に置いてくるね……っ!!」
母親に要先輩のことを追及されたくなくて、エコバッグを押し付けて靴を脱ぎ、悠里は小走りで二階の自室に向かった。
「お祖母ちゃん。要先輩の話、悠里から聞いてる?」
走り去る娘を見送って尋ねる母親に、祖母は苦笑して口を開く。
「悠里も帰ってきたし、おやつにしましょうか。お母さんは紅茶でいい?」
「私、今日はコーヒーを飲もうかな。お祖母ちゃんが淹れてくれるの?」
「淹れてあげるわよ」
「ありがとう!! 今日は本当に何もしなくていい日で嬉しい……!!」
「晩ご飯の支度と片づけは頑張ってね」
「……はい。晩ご飯のメニュー、何にしようかなあ……」
祖母はキッチンに、母親はダイニングに向かう。
祖母は、母親の意識が『要先輩』から逸れてひそかに安堵した。
悠里は二階の自室に通学鞄を置いて、つけていた不織布マスクをゴミ箱に捨てて一階に戻る。
それから洗面所で手洗いとうがいをして再び自室に行き、制服から部屋着に着替えて要から貰った『レディ・ローズ』のチョコレート菓子が入った手提げ袋を持って一階に向かった。
悠里がダイニングに入ると、母親と祖父がコーヒーを飲んでいた。
祖母の姿はない。
「お祖母ちゃんは?」
ダイニングを見回しながら悠里が問いかけると、母親がコーヒーカップをテーブルに置いて口を開く。
「今、ミニパンケーキを焼いてくれてる。楽しみだわ。悠里。その紙袋、なに?」
母親が悠里が持っている『レディ・ローズ』の手提げ袋に目を留めて尋ねる。
悠里は祖父を気にしながら口を開いた。
「お弁当のお礼に貰ったの。チョコレートだよ」
そう言いながら、悠里は紙袋から保冷剤が巻き付けられた箱を取り出す。
箱を一つ取り出した悠里は、紙袋にもう一つの箱が入っていることに気がついた。
「えっ!? 箱、二個もある……っ!!」
悠里は、要がくれたのは『レディ・ローズ』という名前の三種類のチョコレートで形作られた薔薇が入ったチョコレート菓子だけだと思っていた。
悠里は箱に巻き付けられている保冷剤を取り除く。
母親が保冷剤を冷凍庫に入れるべく、二つ手にして席を立った。
要がくれた紙袋に入っていたのは、一つは細長い形の箱で、もう一つは正方形の形の箱だ。
細長い形の箱はおそらく三種類のチョコレートで形作られた薔薇が入った『レディ・ローズ』だろうと見当をつけた悠里は正方形の形の箱の蓋を開けた。
「ナッツが入ったチョコっぽい……?」
悠里は正方形の箱の中を見て呟く。
丸くてつやつやしているチョコレート菓子の一粒を手に取って口に入れて味わう。
それは、マカダミアナッツのチョコレート菓子だった。
「めちゃくちゃおいしい……っ」
マカダミアナッツはとても良い香りがして、チョコレートの甘さは優しくまろやかだ。
甘さがちょうどよくて、つい、もう一粒食べたくなってしまう。
悠里は祖父が羨ましそうに見ていることに気づいて、マカダミアナッツチョコが入った正方形の箱を持ち、祖父が座っている席に歩み寄る。
「お祖父ちゃんもチョコ、どうぞ」
悠里はそう言ってマカダミアナッツのチョコレート菓子が入った正方形の箱を祖父に差し出す。
薔薇の花のチョコレートは三つしか入っていないので祖父に内緒で祖母や母親と食べようと思っていたが、マカダミアナッツのチョコレート菓子はたくさん入っている。
……小さな箱なので実際は悠里が考えているよりもマカダミアナッツのチョコレート菓子の数は少ないのかもしれないが。
「いいのか?」
「うん。おいしいよ」
問いかける祖父に、悠里は笑顔で肯く。
祖父は正方形の箱に入っているマカダミアナッツのチョコレート菓子を一粒、指でつまんで口に入れた。
「……うまいな」
「そうだよね。おいしいよね……っ」
しみじみと言う祖父に同意して、悠里もマカダミアナッツのチョコレート菓子を一粒、指でつまんで口に入れた。
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