第五百四十三話 高橋悠里は『レディ・ローズ』のチョコレート菓子の価格に驚き、要に『レディ・ローズ』のチョコレート菓子をプレゼントされて緊張しながら受け取る



「すみません。『レディ・ローズ』とマカダミアナッツチョコをひと箱ずつ、2セットください」


要が慣れた様子で店員に注文をする。


『レディ・ローズ』というのはショーケースの一番目立つところにある三種の薔薇のチョコレート菓子の名前で、可愛らしい箱の中に、左から順番にダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートで花びらが作られた薔薇が並んでいる。

店の名と同じ『レディ・ローズ』が看板商品なのだろう。


綺麗だなあと思いながらショーケースを眺めていた悠里は『レディ・ローズ』の販売価格を見て目を見開き、フリーズする。

税込み3300円……っ!?

チョコレートが3300円!? なんで!?

三つしか無いのに3300円!? 嘘でしょ!?


何度見ても、税込み3300円の表示は変わらない。見間違いということは無い。

悠里が大好きなピーナッツ入りのサイコロ型のチョコレートは大袋にたくさん入っているけれど、300円払えばお釣りが来るのに……っ。


悠里がフリーズしている間に要は会計を済ませる。


『レディ・ローズ』の店員は保冷剤をチョコレート菓子が入った箱に巻き付け、手際よく『レディ・ローズ』のロゴが印字された、手提げがついた上品な紙袋に入れた。

二セット用意して、店員は要に視線を向ける。


「小分けの手提げ袋はおつけしますか?」


「つけてください。二枚ずつお願いします」


「かしこまりました」


店員は手提げがついた紙袋を二枚ずつ入れたチョコレート菓子入りの紙袋を2セット、要に手渡す。


「ありがとうございました」


チョコレート菓子入りの紙袋を2セット受け取ると、要が店員が一礼して言う。

要は店員に会釈をして『レディ・ローズ』の販売価格を見つめてフリーズしている悠里に視線を向けた。


「悠里ちゃん。待たせてごめんね」


要に声を掛けられた悠里は我に返り、要に向き直る。

要は目元を和らげ、悠里に左手で持っていた紙袋を差し出した。


「はい、これどうぞ。お祖母ちゃんと食べて。お弁当のお礼」


「え……っ!?」


悠里は要の顔と紙袋を交互に見つめて戸惑う。

まさか、この高級感溢れる紙袋の中には税込み3300円の薔薇の花のチョコレートが入っている……っ!?


「悠里ちゃん。チョコレート好きなんだよね?」


「好きですけど、こんな高いチョコとか貰えないです……っ」


「でもおいしいよ」


「おいしさは疑って無いです……っ」


税込み3300円の薔薇の花のチョコレートがまずかったら、暴動が起きているはずだ。

まずいチョコレート菓子を売っていたのなら、この店が存続しているはずがないと悠里は思う。


「ごめんね。迷惑だったかな?」


要の言葉を聞いて、悠里は視線をさ迷わせながら言葉を探す。


「迷惑とかじゃなくて、えっと……」


「……」


「ありがとうございます……」


悠里はありがたく要の厚意を受け取ることにした。

断る理由が思いつかなかった……っ。

『レディ・ローズ』の店員は要と悠里のやり取りを見て見ぬふりをしている。

悠里は、要から『レディ・ローズ』のチョコレート菓子が入った高級感溢れる紙の手提げ袋を緊張しながら受け取った。


「保冷剤入れてもらってるけど、早めに食べてね」


「はい……っ」


要の言葉に悠里は肯く。

薔薇のチョコレートは三つあったから、祖母と母親と分けて一つずつ食べよう。

祖父が見ていないところで食べようと悠里は思う。チョコが四つあったら祖父にも分けてあげられたのだけれど……。


そして悠里と要は『レディ・ローズ』を背に、帰途についた。



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