第五百四十一話 高橋悠里は要が帽子を欲しがっていると知り、要とスマホで撮影した写真をプリントアウトしてフォトフレームとアルバムを買いに行く

「悠里ちゃん。俺、帽子を見に行っていい?」


駅ビル内を歩きながら、要が言う。


「はい」


「ありがとう。俺、土日の朝とかジョギングしてるんだけど、その時に被ろうかなと思って」


帽子。今日、要が素敵な帽子を手に入れてしまったら、要に喜んでもらえて、尚且つ普段使いしてもらえそうな誕生日プレゼントの選択肢が一つなくなってしまう……!!

要が帽子を欲しがっているという超有益かつ重要な情報を入手できたのに……!!


「悠里ちゃん。なんか難しい顔してるね」


「私、今、要先輩が帽子を欲しがってるって知れたのに、要先輩が素敵な帽子を手に入れてしまったら要先輩のお誕生日プレゼントにできないなあって思って……」


悠里は思ったことをそのまま口にする。

要は悠里の思考が可愛くて笑ってしまった。


「じゃあ、今日、帽子を買うのはやめるね。そうだ。二人でスマホで撮った写真、プリントアウトしようよ」


「はいっ」


悠里と要は歩調を合わせて、駅ビルの一階に向かった。


駅ビルの一階には銀行のATMやコーヒーの自動販売機、コピー機等が並ぶ一角があり、そこにはスマホやデジタルカメラで撮影した写真をプリントアウトできる機械も置いてある。


悠里は要と一緒に写真の画像を見ながら、スマホで撮ったものをプリントアウトして、備え付けの紙の封筒にプリントアウトした写真を入れた。

要との思い出が形になったようで、悠里はすごく嬉しい。


要の厚意で写真代を払ってもらってしまったので申し訳ないのだが、要は『お弁当のお礼に』と言ってくれたので彼の言葉に甘えることにした。


「要先輩。私、写真を飾るフォトフレームと写真をしまうアルバムを買いたいと思うんですけど、いいですか?」


「うん。いいよ。俺もフォトフレームとアルバムが欲しい。そうだ。俺のフォトフレームとアルバムを悠里ちゃんが選んでくれない?」


「えっ!? それは、責任重大ですね……っ」


「気楽に考えてくれていいよ。俺は悠里ちゃんが選んでくれた物ならなんでも嬉しいと思う」


「要先輩。それは私を甘やかすダメな考えですっ。私は要先輩が嬉しい気持ちで使えるフォトフレームとアルバムを全力で探します……っ」


悠里は拳を握りしめて宣言し、言葉を続ける。


「私のフォトフレームとアルバムは要先輩が選んでくれますか?」


「うん。俺も悠里ちゃんが嬉しい気持ちで使えるフォトフレームとアルバムを探すね」


「はいっ」


悠里は要の言葉に笑顔で肯く。

この時、悠里は要に喜んでもらえるフォトフレームとアルバムを選ぶことしか考えていなかった。

フォトフレームとアルバムを選んだ後には会計が待っていること、今日の悠里の財布の中には1050円しか入っていないことは、すっかり頭から抜け落ちていた……。


悠里と要は駅ビル内の雑貨屋で、お互いが使うフォトフレームとアルバムを選ぶために二手に分かれて店内を歩く。


「あっ。このフォトフレーム可愛い」


悠里は四角い木製のフォトフレームの前で立ち止まる。


「税込みで660円かぁ。手頃な価格だよね」


そう呟いて、悠里は今日、財布にいくら入れて来たのか気になった。

通学鞄に入れている財布を取り出して中身を確認する。


「お札、千円しか入ってない……」


いやいやいやいや。小銭。小銭は入れているはず……っ。

悠里は財布の軽さから目を背けながら、小銭を確認した。


「50円玉いちまいしか入ってない……っ」


学校に行く用意をした時の自分はいったい何を考えていたのだろうか。

なんで……なんで1050円しか入ってないの……?

悠里は途方に暮れ、そして自分の失態を要に報告するために重い足取りで、白いフォトフレームを見つめる彼に歩み寄った。



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