第五百四十話 高橋悠里は要と駅ビルに向かう途中、同じクラスの女友達と会う
教室を出た悠里は要と並んで廊下を歩きながら口を開く。
「相原くんと篠崎先輩、楽しそうでよかったですよね」
「そう? 相原は嫌そうな顔してなかった?」
「私は楽しそうだなあって思ったんですけど……」
要を見つめて悠里は首を傾げながら言う。
「悠里ちゃんは相原のことが気になる?」
要は複雑な胸の内を押し隠して、何気なく悠里に問いかける。
二人で並んで階段を下りながら、要は悠里の答えを待った。
……颯太が悠里に好意を寄せていることは要の目には明らかだった。
だから、要は悠里に1秒でも早く告白しようと思ったのだが、悠里が乙女ゲーム好きと知って、どう告白したら喜んでもらえるか考えるのに時間が掛かってしまった。
颯太が音楽室で悠里に告白した時は本当に驚いたし、悠里が颯太に告白されていると気づかないうちに連れ出して要の想いを伝えられたことは本当に幸運だったと思う。
「気になりますよ。同じサックスパートの一年生だし、相原くんは私にアルトサックスを譲ってくれた恩人なのでっ。それに、私、相原くんの好きな女の子がはるちゃんっだって誤解して迷惑かけたことがあったので……」
「そうなんだ」
悠里が颯太に友情以外の特別な感情を抱いているわけではないようだとわかって、要はほっとした。
その後、学校を出た悠里と要は駅ビルに向かう。
駅前の広場は平日の午後で、コロナ禍ということもあり人通りは少ない。
でも、中学校がテスト明け休みで遊びに外に出ている子たちの姿がちらほらと見える。
制服を着て歩いているのは悠里と要だけで、周囲から浮き、目立っているように感じて悠里は少し気まずい。
「悠里ちゃん……っ」
前から歩いてくる女子ふたりのうちの一人が悠里に声を掛けて手を振る。
悠里も彼女に手を振った。
互いにすれ違って歩いていく。
「悠里ちゃんの友達?」
要に問いかけられて悠里は肯く。
「同じクラスの雫ちゃんと真琴ちゃんです。小学校三年生の時に同じクラスになって、仲良くなったんです。今はコロナ禍だから、なるべく大勢で集まらないようにして、特に仲良しの子とだけ一緒にいる感じになってて。だから私は教室で、はるちゃんと二人だけで一緒にいることが多いんですけど、時々は喋りますよ。でも佳奈ちゃんがいないみたい。三人いつも一緒にいるんだけどな」
堀内雫と浜辺真琴、それから南佳奈は小学生の頃から同じバレエ教室に通っていて、中学に入ってからも仲良くしている。
悠里は小学三年生の時、雫たちのバレエの発表会に花束を持って行ったことがあり、すごく綺麗な舞台だったことを今でも覚えている。
新型コロナの流行がおさまったら、またバレエの発表会に花束を持って行きたい。
要はバレエが好きだろうか。
以前は祖母と一緒にバレエの発表会に行ったけれど、要がバレエを好きなら今度一緒に行きたいと思う。
きっと楽しいはずだ。
「その子は今日、何か用事があるのかもしれないね」
「そうですね」
悠里は要に肯き、そして要と悠里は駅ビルに足を踏み入れた。
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