第五百三十七話 高橋悠里と要は1年3組の教室に戻り、悠里は萌花の写真を選ぶ



要と悠里は顔を寄せ合い何枚も2ショット写真を撮って、互いに一番好きな写真をスマホの待ち受け画面に設定する。

スマホの中に、いつでも笑顔の要と悠里がいて、悠里はすごく嬉しい。

要はにこにことスマホの画面を見ている悠里の頭を優しく撫で、口を開いた。


「もう少し二人でいたいけど、そろそろ戻ろうか」


「はい」


悠里は要に肯き、開けた窓を閉めて鍵をかける。

教室の窓をすべて閉め、窓の鍵をかけたことを確認した悠里と要は手を繋いで教室を出た。


誰にも見つからずにサックスパートが練習している教室に戻るために、悠里と要は手を繋いだまま、小走りで階段を下りる。

いたずらをして、見つからないように逃げている子どもみたいでなんだか楽しい。


悠里と要がテナーサックスの音色が響く1年3組の教室戻ると、窓際の列の後ろから二番目の席に横座りした萌花が難しい顔でスマホの画面を睨んでいる。

颯太は萌花に背を向けてテナーサックスを吹いている。

悠里は要に視線を向けて口を開いた。


「私、篠崎先輩に声を掛けてきますね」


「篠崎なんて放っておけばいいのに」


要が拗ねたように言う。

そんな要を可愛いと思いながら、悠里は微笑して口を開いた。


「お昼ご飯、篠崎先輩を仲間外れみたいにしちゃって申し訳ないなあって思うので。なんか難しい顔をしてるし、篠崎先輩の話を聞いてきます。要先輩はアルトサックスの練習をしててください。あっ。そうだ」


悠里は要と繋いでいた手を離し、自分の通学鞄を掛けた机に向かう。

そして通学鞄から要と一緒に買った楽譜を取り出して要に元に戻り、彼に楽譜を差し出す。


「私、要先輩と一緒に買った楽譜を持って来たんです。あとで一緒に吹きましょうね」


「うん。俺、楽譜借りて練習していてもいい?」


「はい」


悠里は要に肯き、彼に楽譜を渡した。

悠里から楽譜を受け取った要は微笑み、口を開く。


「ありがとう。じゃあ、俺、練習してるね。曲は勝手に決めちゃっていい?」


「はい。お任せします」


悠里は要に言葉にそう言って微笑み、自分のマスクケースから不織布マスクを取り出してつけた。

そして、窓際の列の後ろから二番目の席に横座りしている萌花の元に向かう。


「篠崎先輩。難しい顔をしてスマホ見てるみたいですけど、どうかしました?」


悠里に声を掛けられた萌花は目を上げ、口を開いた。


「写真、選べないんだ。高橋ちゃんはどの写真のあたしが可愛いと思う……?」


『カメラマンとモデルごっこ』をしている時に颯太が萌花を撮影した時の写真を選んでいるのだろうかと思いながら、悠里は萌花が差し出したスマホを受け取る。

スマホにはバスケ漫画に出てくる二重顎の監督のストラップがついている。


「このスマホ、もしかして相原くんのですか? 私が勝手に触って平気なのかな?」


「あたしの写真しか見なければ大丈夫。高橋ちゃんはどの写真のあたしが可愛いと思う?」


颯太の代わりに萌花がそう言って、縋るように悠里を見た。

悠里は手早く写真データを見て、1枚の写真を選択する。

窓からの風で萌花の髪が揺れ、萌花が弾むように笑っている写真だ。


「私はこの写真の篠崎先輩が1番可愛いと思います」


そう言いながら、悠里は萌花に颯太のスマホを返した。

萌花は悠里が選んだ写真を真剣に見つめ、二度肯く。


「うん。そうだね。あたしもこの写真がいいかもって思う。相原くんっ。写真、これを送って……っ」


萌花はそう言いながら立ち上がり、テナーサックスを立って吹いている颯太に歩み寄って彼のスマホを差し出す。

颯太は練習をやめて、萌花が指定した写真を颯太の友達に送信した。




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