第五百三十五話 高橋悠里と要は颯太が萌花をスマホで撮影しているのを見て自分たちも昼ご飯を食べ終えたら二人で写真撮ることにする



要は悠里が作ってくれたお弁当をおいしく食べ、要を嬉しそうに見ている悠里を幸せな気持ちで見つめていると、視界の端にポーズを取っている萌花と萌花をスマホで撮影している颯太がいて、思わず眉をひそめる。

要が眉をひそめたことに目ざとく気づいた悠里は不安な顔で口を開いた。


「要先輩。口に合わないものとかありましたか?」


お弁当は、サンドイッチに鶏のから揚げに卵焼き、そしてミニトマト。

多くの人に好まれそうなメニューでも、要の好みに合わないものがあったのかもしれない。

要が悠里の不安げな表情に気づいて、慌てて口を開いた。


「お弁当は、全部おいしいよ。大丈夫。悠里ちゃん。ちょっとあっち見てみて」


要はそう言いながら、教室の窓際でポーズを取っている萌花と萌花をスマホで撮影している颯太を指さす。

悠里は首をひねって要が指さす方を見た。


「相原くんが篠崎先輩をスマホで撮影してる……? 『カメラマンとモデルごっこ』とかしてるんですかね?」


要に視線を戻して言う悠里に、要は微笑んで口を開く。


「俺たちもやる? 俺がカメラマンで悠里ちゃんがモデルの『カメラマンとモデルごっこ』」


「それ、反対がいいですっ。要先輩がモデルで私がカメラマンの『カメラマンとモデルごっこ』をやりたいですっ」


悠里は要を撮影しまくりたい!!

特に、アルトサックスを吹いている要を撮りたい……!!

目を輝かせて言う悠里を可愛いと思いながら、要は口を開いた。


「じゃあ、二人で撮る? っていうか、二人で撮りたい。今ならマスク無しで写真撮れるし。俺、体調とか特に問題ないし、母親も元気だから近づいても大丈夫だと思うんだけど……嫌かな?」


「嫌じゃないです!! 嬉しいです!! うちの家族も誰も熱出てないし、喉痛いって言ってないし、身体が怠いわけじゃないから大丈夫です……!!」


「そっか。じゃあ、お弁当を食べ終えたら写真、撮ろうね」


「はいっ」


悠里は要に肯き、お弁当を食べ始めた。


「篠崎先輩。もうこの写真でいいんじゃないですか? ほら。ちゃんと笑顔、撮れてるし」


窓際で萌花の写真を15枚撮った直後、うんざりとした顔で颯太が言い、萌花にスマホの画面を見せた。

スマホの画面に表示された写真を見て、萌花は首を傾げて口を開く。


「でもさ、もうちょっと可愛く撮れるかもしれないじゃん?」


「これ以上を望むなら、写真加工アプリで加工とかしてください」


颯太は今日、吹奏楽部の部活動に来たはずなのに、なぜ好きでもない女子の写真を颯太のスマホで撮影しなければならないのか。

それは萌花が『あたしと二人でご飯食べたい』って言ってくれるカレシが欲しいと言った時に、颯太がうっかり、どうしてもカレシが欲しいなら『誰でもいいからカノジョが欲しい』と言っている颯太の友達を紹介しようかと言ってしまったからだ。


颯太が友達に『カノジョが欲しいなら、部活の先輩を紹介するからお前の自撮り写真を送れ』とメッセージを送ったところ、すぐに彼の自撮り写真が送られてきた。

萌花は送られてきた写真を見て颯太の友達を気に入り、そしてこの事態に陥ったのだ。


颯太の言葉を聞いた萌花は不満げな顔をして口を開く。


「写真加工アプリはダメでしょ。だって実際、会うんだしっ」


「俺はもう篠崎先輩を撮るの嫌ですよ。15枚撮ったんだから、1枚くらい気に入る写真があるでしょ? 選んでください。俺の友達、正座待機して先輩の写真を待ってると思いますよ」


颯太はそう言いながら、自分のスマホを萌花に渡す。

萌花は渋々颯太のスマホを受け取り、写真を選び始めた。



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