第五百三十四話 高橋悠里は要にサンドイッチを食べてもらって心躍り、萌花と颯太は恋バナをする
悠里と要は昼食を食べる準備を終えて向かい合う。
悠里の机の上には要が買ってきてくれたオレンジジュースと割り箸、サンドイッチとおかずが入ったプラスチック容器を置かれ、要の机の上にはブラックコーヒーと割り箸、サンドイッチとおかずが入ったプラスチック容器を置かれている。
「いただきます」
悠里と要は声を揃えて言い、要はサンドイッチが入った容器のプラスチックの蓋を開けた。
悠里は自分が……正確には悠里の祖母が……作ったサンドイッチを食べてもらえると緊張しながら要を見つめる。
「綺麗な彩りのサンドイッチだね。すごくおいしそう。写真を撮りたいけど、手を洗っちゃったからスマホに触るのはダメだよね……」
写真を撮る!!
悠里は要の言葉を聞いて、お弁当の写真を撮っておかなかったことを後悔した。
悠里には出来上がったお弁当の写真を撮るという発想が無かった……。
「どれもおいしそうだから、どれから食べるか迷うね」
要は嬉しそうにそう言いながら、一番左端のサンドイッチを手に取った。
サンドイッチの具は左から順番に、ポテトサラダ、卵、ハムとレタス、ハムとチーズ、カスタードクリームとバナナだ。
悠里は要がポテトサラダのサンドイッチを頬張るのをどきどきしながら見つめる。
大好きなカレシが、悠里が頑張って作ったポテトサラダのサンドイッチを食べてくれた……!!
ポテトサラダのサンドイッチを飲み込んだ要は悠里に微笑み、口を開いた。
「おいしい」
「本当ですかっ? よかった……っ」
要が悠里が頑張って作ったポテトサラダのサンドイッチを食べて、おいしいと言ってくれた!!
嬉しい……!!
心が弾み、嬉しくて踊り出したいような気持になる。
要は嬉しそうな悠里を見つめて口を開いた。
「悠里ちゃんも食べよう」
まだサンドイッチが入ったプラスチックの容器の蓋を開けていない悠里に要が言い、悠里は要に肯いて自分の分のサンドイッチが入ったプラスチックの容器の蓋を開けた。
そして悠里もサンドイッチを食べ始める。
おいしい。要がおいしいと言ってサンドイッチを食べてくれたので、おいしさが増したような気がする。
窓際の最後尾の席に座ってコンビニで買ったカレーパンを食べている颯太の前の席の椅子に横座りして、自分もコンビニで買ったチーズ蒸しパンを食べながら、萌花は悠里と要に視線を向け、ため息を吐いた。
「高橋ちゃんと藤ヶ谷くん、楽しそう。いいなあ。あたしもあっちに混ざりたかった」
「いやいやいやいや。あの二人は二人きりで昼飯食べてるから楽しいんであって、篠崎先輩が混ざったら微妙な空気になりますよ。絶対」
「それひどくない? コロナ禍だからあんまり言えないけどさ、ご飯は大勢で食べた方がおいしくない?」
「今は、給食とか全員無言で食べてるから、ひとりでも大勢でもあんまり変わらないですけどね」
「あたしも『あたしと二人でご飯食べたい』って言ってくれるカレシが欲しい……」
「飯は大勢で食った方が楽しいんじゃないんですか?」
「そうなんだけどさ……」
「篠崎先輩はどんな男が好みなんですか?」
「えー? うーん……。『あたしのことが好きで大事にしてくれる人』かなあ?」
「それ絶対カレシできないやつですから、具体的にどういう奴が好きとか考えておいた方がいいですよ」
「でもさ『好きになった人がタイプ』とか言わない? 『恋に落ちる』って言うじゃん?」
「そもそも好みのタイプで出会わなければ『恋』にならないですからね。俺はもう次の恋、してますけど」
「えっ!? 嘘、そうなのっ!? 誰? どんな子? あたしが知ってる子?」
「ノーコメントでお願いします。まだ付き合ってるわけじゃないんで」
「そっかぁ……。でもよかったね。相原くん、好きな子できて」
颯太が音楽室で吹奏楽部の合奏直後に悠里に告白し、そしてフラれた経緯をすべて見ていた萌花はしみじみと言う。
颯太は自分の恋が叶わなくても、誰にも八つ当たりすることなく、きちんと自分の気持ちに折り合いをつけた。
萌花は、自分の恋が叶わない悲しみや苛立ちを恋敵である悠里に叩きつけるように暴言を繰り返した美羽を見ていたから、颯太のことをすごいと思うし、尊敬している。
颯太が新しい恋をして、今度こそ、その恋が報われてほしいと思う。
「篠崎先輩がどうしてもカレシが欲しいなら『誰でもいいからカノジョが欲しい』って言ってる俺の友達を紹介しますけど。年下でよければ」
「本当!? その子の写真ある? かっこいい子?」
「好みの男は『篠崎先輩が好きで大事にしてくれる人』じゃないんですか……?」
「実際、付き合うなら外見も大事だよっ」
「じゃあ、飯食い終わったら、そいつに自分の自撮り写真を送るようっていうメッセージを送ります」
「ありがとうっ。あたしの写真とかあった方がいい?」
「あった方がいいと思います。あいつにも好みがあるかもしれないんで」
『誰でもいいからカノジョが欲しい』と言っておきながら、実はアイドル並みの容姿の女子をカノジョにしたい男もいる。
颯太はうっかり面倒なことに首を突っ込んでしまったと思いながら、手にしているカレーパンを食べ切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます