第五百十六話 マリー・エドワーズは強制ログアウトして高橋悠里は湯上りに髪を乾かしながら『クリーン』について想いを馳せた後、明日の予定を伝える



祖父に抱っこされたマリーと真珠が職人ギルドを目指している途中、サポートAIの声が響く。


「プレイヤーの身体に強い揺れを感知しました。強制ログアウトを実行します」


その言葉を聞いた直後、マリーの意識は暗転した。


悠里が目を開けると、祖父の顔が目の前にあった。

お祖父ちゃん? なんで?


「悠里、起きたか。風呂が空いたぞ」


「……わかった。呼びに来てくれてありがとう」


悠里がそう言うと祖父は肯き、部屋を出て行った。

どうやら強制ログアウトをしたらしいと自覚して、悠里はため息を吐き口を開く。


「強制ログアウトしちゃったかぁ……。お祖父ちゃんに抱っこしてもらってる時でよかった……」


ゲームの祖父に抱っこしてもらって移動している途中、リアルの祖父に身体を揺り起こされて目覚める。

なんだか不思議だ。


悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。

それからゲーム機の電源を切った。

ヘッドギアとゲームをつなぐコードはそのままにしておく。

悠里は大きく伸びをして、お風呂に入る用意をして部屋を出た。


のんびりとお風呂に入り、身体と髪を洗い終えた悠里は、身体を拭いて長い髪をドライヤーで乾かす。

洗面所の鏡に映る、ドライヤーの熱風で踊る自分の髪を見ながら、悠里は口を開いた。


「リアルで『クリーン』が使えたら、髪の毛とか一瞬で乾くのかなあ……。それとも髪の毛が消えてハゲるのかなあ……?」


悠里は呟いた後に『アルカディアオンライン』で領主館の侍女長に『クリーン』をかけてもらった真珠がハゲることなく綺麗になったことを思い出して微笑んだ。

『アルカディアオンライン』の『クリーン』ではハゲない。安全だ。


悠里は長い髪をドライヤーで根元からきちんと乾かし終えて、ゲームで遊ぶために自室に向かう。


「あ。そうだ。明日、部活に行くって言い忘れてた」


階段を上っている時に明日の予定を祖母や母親に伝え忘れていることに気づいた悠里は小走りで階段を下り、祖母や母親が居そうなリビングに向かった。


リビングのソファーには、仲良く並んで座ってテレビのニュースを見ている祖母と祖父がいた。

母親の姿はない。


「お母さんはテレビ見てないんだね」


悠里はそう言いながら、祖母と祖父が並んで座っているソファーに歩み寄る。


「お母さんは寝室で『アルカディアオンライン』をプレイしていると思うわ」


祖母がソファーに悠里が座れるように祖父の方に身を寄せた。

祖父は祖母の動きに気づいて、自分もソファーの端に寄る。

悠里は祖母の隣に腰かけて口を開いた。


「あのね。私、明日、学校に行くからね」


悠里がそう言うと祖母は首を傾げて口を開く。


「明日はテスト明け休みじゃなかった?」


「そうなんだけど、部活をやってもいいって。9:45くらいに家を出ようと思ってるんだ」


要との約束の時間は10:00だけれど、要はわざわざ悠里の家に迎えに来てくれるのだから、早めに家の前で待っていたい。


「お昼はどうするの? 学校が休みなら、給食は無いわよね? 私がお弁当を作りましょうか? サンドイッチ用のパンがあるのよ」


「本当!? 嬉しいっ。私も早起きして手伝うね」


「悠里は早起きできるのか?」


祖父がからかうように言う。


「スマホのアラームをセットするから大丈夫っ。それでね、私の分だけじゃなくて、一緒に部活をする先輩の分もサンドイッチを用意したいの。いい?」


「いいわよ。冷蔵庫や野菜室にある物を確認しておくわね。明日は7時に起きられる?」


「起きるっ」


悠里は拳を握りしめてそう言って、祖母と祖父に微笑んだ。


***


風月9日 夕方(4時58分)=5月20日 20:58



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