第五百十三話 マリー・エドワーズはカウンター前にスロットマシーンを鎮座させ、カウンター前にある丸椅子に座った真珠がスロットマシーンで遊ぶ
小麦粉焼きを食べ終えた……小麦粉焼きを主に食べたのは真珠だ……マリーはコップの水を、真珠は床に置かれた平皿の水を飲む。
水はぬるいが、真珠にはおいしく感じられた。
マリーは木のコップに入った水を半分ほど飲み、コップをカウンターに置いて口を開く。
「お祖父ちゃん。あのね、椅子が欲しい時は職人ギルドに行けばいいんだよね?」
「マリーは椅子が欲しいのか? 今、座っている丸椅子のような椅子でいいなら俺が作ってやるぞ」
祖父の言葉を聞いたマリーは目を輝かせて口を開く。
「本当!? あのね。真珠が座る椅子が欲しいの。真珠がスロットマシーンで遊ぶのにちょうどいい高さの椅子がいいの」
「わんわんっ!!」
マリーの言葉を聞いた真珠が尻尾を振って吠え、首を縦に振る。
真珠はスロットマシーンで遊ぶ時に座る椅子が欲しい!!
マリーの言葉を聞いた祖父は眉をひそめて口を開いた。
「マリー。『すろっとましーん』というのはなんだ?」
祖父はスロットマシーンを知らないようだ。
マリーはアイテムボックスからスロットマシーンを取り出して祖父に見せることにした。
「ステータス」
マリーはステータス画面を出現させて操作し、スロットマシーンを取り出す。
祖父は突如出現したスロットマシーンを見て目を丸くしたが、孫娘が『聖人』であることを改めてかみしめながら平静を装う。
「お祖父ちゃん。これがスロットマシーンだよっ」
カウンター前に鎮座したスロットマシーンを、マリーが得意満面な顔で紹介する。
……邪魔だと思ったが、可愛い孫娘の誇らしげな顔を見て、祖父は曖昧に微笑んだ。
真珠はきらきらした目で大好きなスロットマシーンを見つめる。
マリーはスロットマシーンと自分が座っている丸椅子を見比べて口を開いた。
「この椅子、高さがちょうどいいかも……っ」
マリーは丸椅子から飛び下りて、スロットマシーンの前にずるずると丸椅子を引きずる。
スロットマシーンに丸椅子を近づけたマリーは真珠に視線を向けて口を開いた。
「真珠。椅子に乗ってみて」
「わんっ」
真珠はマリーに肯き、丸椅子に飛び乗った。
宿泊客用の階段を下りてきた商人の男がカウンター前に鎮座するスロットマシーンを見て目を丸くしている。
丸椅子に座った真珠はスロットマシーンの丸いボタンを押すために右の前足を伸ばす。
真珠の右の前足がスロットマシーンの丸いボタンに……届いた!!
真珠は右の前足でスロットマシーンの丸いボタンを押せる!!
マリーは尻尾を振りながら、嬉しそうにスロットマシーンの丸いボタンを何度も押している真珠に微笑み、口を開いた。
「よかった。この丸椅子は真珠に合うみたいだね。お祖父ちゃん。この丸椅子と同じ椅子を作ってくれる?」
「わかった。任せろ」
「わんっ。わんわぅ、わうう!!」
真珠はマリーにスロットマシーンで遊びたいとねだった。
「そうだね。スロットで遊ぼうね」
スロットマシーンで遊びたい願う真珠の気持ちがマリーに通じた!!
宿泊客の商人の男がスロットマシーンを興味深そうに見つめる中、マリーはアイテムボックスからヘヴンズコインが入った皮袋を取り出した。
祖父もカウンターから出てきて、真珠とスロットマシーンを眺める。
マリーは皮袋からヘヴンズコイン1枚をコイン投入口に入れた。
賑やかな音と共に、スロットが回り出す。
祖父と商人の男が歓声……というには低い声だったが……をあげた。
真珠は回転するスロットを真剣な眼差しを向ける。
真珠が狙っているのは『おうかん』だ。
スロットは回る、回る、回る。
マリーと祖父、商人の男が真剣な顔でスロットマシーンを見つめる中、真珠が動いた!!
真珠は右の前足でスロットマシーンのボタンを押した。
一番左端のスロットが止まる。
『おうかん』が出た……!!
「わおんっ!! わんわんっ!!」
真珠は狙い通りに王冠を出せて大喜びした。
祖父と商人の男が拍手をする。
ただ一つだけ絵が決まっただけだと思ったマリーは騒ぐことなく静かにスロットを見つめた。
「真珠。ここからが勝負だよっ。王冠の絵を狙うんだよ」
真珠はマリーに肯き、回転するスロットを真剣に見つめる。
真珠の目は回転するスロットの王冠の絵を捉えた!!
真珠は狙いすまして右の前足でスロットマシーンのボタンを押す。
真ん中のスロットが止まった。
『おうかん』が出た……!!
王冠の絵が二つ揃ったのを見て祖父と商人の男が野太い歓声をあげる。
いつの間にか、スロットマシーンを取り囲む宿泊客の数が増えている。
祖父がカウンター業務を放り出しているせいで、カウンターが空っぽで宿泊客たちは宿泊代の清算ができないのだ。
「真珠。頑張れ……っ」
マリーは拳を握りしめて真珠を応援した。
「シンジュ、絵を揃えろ!!」
祖父が野太い声で声援を送った。
真珠は回転するスロットから目を離さずに肯き『おうかん』を狙う……!!
宿泊客たちが手拍子で真珠を後押しする。
スロットは回る、回る、回る……ここだ!!
真珠は右の前足でスロットマシーンのボタンを押した。
一番右端のスロットが……止まる。
出た絵柄は……『おうかん』だ!!
「わうわん、わうっ!! わおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!」
真珠は嬉しくて吠えた。
スロットマシーンのコイン受け取り口には音を立ててヘヴンズコインが流れ出る。
マリーも祖父も、真珠を見守っていた宿泊客たちも大喜びだ。
騒ぎを聞きつけた祖母がカウンター奥から姿を現し、カウンター業務を放り出している祖父を叱りつける中、マリーは受け取り口に大量に流れ出るヘヴンズコインを回収して皮袋いっぱいに押し込め、入らない分のヘヴンズコインは左腕の腕輪に触れさせて収納した。
***
風月9日 朝(2時53分)=5月20日 18:53
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