第五百九話 高橋悠里は自室で祖父のために『アルカディアオンライン』の会員登録をして餃子を食べに行く



餃子の餡をすべて包み終えた悠里は達成感に包まれ、伸びをした。

祖母はそんな悠里を見つめて微笑み、口を開く。


「悠里が手伝ってくれたから助かったわ。餃子、持っていくわね。晩ご飯の時間には早いけれど、もう焼いてしまおうかしら」


祖母が包んだ餃子を並べた皿を両手に持ち、キッチンに向かう。

悠里は手を洗うために立ち上がり、洗面所に行くためにダイニングを出た。


洗面所で手を洗った悠里はリビングに向かう。

祖父に貸したスマホを返してもらおう。


悠里がリビングに足を踏み入れると、祖父はまだ悠里のスマホの画面を見ていた。


「お祖父ちゃん。『アルカディアオンライン』の規約、読み終わった?」


「もうすぐ読み終わる」


スマホの画面を見ながら祖父が言う。

悠里は幼なじみの圭が遊んでいるゲームだからと思って油断して、規約を全く読まずにゲームをプレイし始め、今も規約に目を通していないので、そんなに大量の文章が記載してあるのかと驚いた。


「読み終わった。……そうだな。俺もこのゲームをやってみようかと思う。そうすればお祖母ちゃんに綺麗な花をプレゼントできるんだろう?」


祖父はそう言って微笑み、悠里にスマホを差し出す。

ゲームをプレイする理由は人それぞれだ。

母親は姿見の鏡を見ているだけで、主人公を選んでもいない状態だし……。

そんなことを考えながら、悠里は祖父からスマホを受け取り、口を開く。


「じゃあ、お祖父ちゃんの通帳を貸してね。ゲーム機器の申し込みをする時に口座番号とかも入力しなくちゃいけないの。私のノートパソコンから申し込むから、部屋に通帳を持ってきてね」


「わかった」



悠里はリビングを出て二階の自室に向かう。


自室に入った悠里はスマホを充電した後、机にある自分のノートパソコンを起動させて『アルカディアオンライン』の公式サイトにアクセスしてゲーム機器を申し込むための手続きを始めた。


本来は代理人と記載しなければいけないのかもしれないけれど、祖父本人ということで記載をすすめる。

続いて祖父の氏名と生年月日、それから住所を記載する。


「ゲーム機材送付先住所は、住所と同じなら空白でいいんだよね」


続いて、連絡先として祖父の電話番号と祖父のメールアドレスを記載する。

悠里は家族の電話番号とメールアドレスをすべて把握しているのだ。

高橋家のデジタルのセキュリティーは家族間では機能していないに等しい。


「悠里。通帳を持ってきたぞ」


ノックをせずに悠里の部屋に入ってきた祖父が自分の通帳を悠里に渡す。


「ありがとう。お祖父ちゃん」


祖父の通帳を受け取った悠里は祖父の口座番号等を入力した、

そしてすべての情報を入力し終えて『確認する』をクリックし、記載した情報に間違いが無いか確認して『登録する』を選択する。

画面には『登録が完了しました。記載したメールアドレスに登録完了のメッセージを送信しています。お手数ですがご確認ください』と表示されている。


「お祖父ちゃんのスマホに『アルカディアオンライン』からのメールが来ていると思うんだ。登録完了メールには『近日中にアルカディア運営スタッフから、連絡先として登録した電話番号に連絡が来る』って書いてあると思う。そのうちスマホに『アルカディアオンライン』のスタッフから直電が来ると思うから、話を聞いてね」


「わかった」


悠里が祖父に通帳を返した直後、祖母が部屋に入ってきた。


「お祖父ちゃんも悠里の部屋にいたのね。晩ご飯には少し早いんだけど、餃子が焼き上がったから呼びに来たのよ」


「わかった。通帳をしまい終えたら食べに行く」


祖父はそう言って部屋を出て行く。

祖母は悠里のノートパソコンに目を向けて口を開いた。


「もしかしてお祖父ちゃんも『アルカディアオンライン』をプレイするの?」


「うん。お祖父ちゃんはお祖母ちゃんに綺麗な花束をプレゼントしてあげたいんだって。お祖父ちゃんはお金があるんだから、花屋さんで花束を買えばいいのにねえ」


祖父は悠里にお小遣いをくれようとするのに、祖母のために花屋に行って花束を買うことは思いつかないらしい。


「ふふ。男の人はお花屋さんに行くのは敷居が高いのかもしれないわね」


祖母は微笑んでそう言った後、棚の上のフラワーバスケットに目を留めた。


「もしかして悠里は自分の分も頼んだの? フラワーバスケット、綺麗ね」


「あれはプレゼントなんだよ。誰から貰ったのかは秘密」


「悠里もお花を贈られるくらいに大きくなったのね」


「そうだよ。もう中学一年生なんだから」


しみじみと言う祖母に悠里は笑顔になって『アルカディアオンライン』の公式サイトを閉じ、ノートパソコンをシャットダウンして立ち上がる。


「餃子、おいしくできたかなあ?」


「綺麗に焼けたから、きっとおいしいわよ」


祖母と悠里は仲良くダイニングへと向かった。



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