第五百八話 高橋悠里はダイニングで花瓶に生けられたカーネーションを見て、祖母と餃子の餡を包む



悠里は自室から自分のスマホを持ち出して祖父が待つリビングへと戻り『アルカディアオンライン』の公式サイトにアクセスして祖父に見せた。


「お祖父ちゃん自身が規約を確認して、納得したら私が『アルカディアオンライン』のゲーム機器の申し込みをするね。お祖母ちゃんやお母さんからゲームの話を聞いてもいいと思う」


「わかった」


祖父は悠里のスマホで『アルカディアオンライン』の規約の確認をし始め、悠里は母親と祖母のところに行くことにした。

二人の花束かフラワーバスケットを見たい。

それに、祖父が言った『白くてくるくる巻いている花』というのも気になる。


「お母さんとお祖母ちゃんはダイニングにいるかな?」


悠里はリビングを出てダイニングに向かった。


ダイニングでは母親と祖母が餃子の餡を皮で包んでいた。

テーブルの上には花瓶に生けられたカーテーションが飾られている。


「わあっ。カーネーション、綺麗……!!」


悠里はカーネーションを見て歓声をあげた。


「ありがとう。悠里。ちょっと遅い母の日って感じで嬉しかったわ」


母親が笑顔で悠里に言う。


「お母さん、今年の母の日スルーしてごめん……」


悠里はしょんぼりと言うと、母親は苦笑した。


「いいわよ。お父さんがプリンを買ってきてくれたし」


「えっ? そうなの? 私、プリン食べてないよね?」


「お父さんとお母さんと、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんで食べたの。大人だけで」


「えーっ。ずるい……っ」


悠里は『アルカディアオンライン』をプレイして自室にこもっているので一階で大人たちがおやつを食べていても気づけない。

そのおかげで二階にいる悠里が放っておいてもらえて、夜更かしがバレずに済んだということもあるのかもしれない。


「私はカラーの花束だったわ。すごく綺麗で、陶器の花瓶に生けて和室に飾っているのよ」


祖母が嬉しそうに言う。

祖父が『白くてくるくる巻いている花』と言っていたのはどうやらカラーのようだ。


「私もお母さんも、花束の状態の写真を撮ったから、あとで悠里にも見せるわね。すごく驚いたし、すごく嬉しかったわ。ありがとう」


「どういたしましてっ」


祖母が嬉しそうで悠里も嬉しい。

母親は餃子の餡を皮で包むために自分が使っていた水が入った小皿と銀色のスプーンを悠里の目の前に置いた。


「悠里は私が使ってた小皿とスプーンを使って餃子の餡を皮で包んで。私はキッチンで煮卵を作ってくるから」


「はあい」


母親はキッチンへ向かい、悠里は手を洗うために洗面所に行く。

そしてダイニングに戻った悠里は椅子に座って餃子の皮とスプーンを手にして、銀色のボウルの中にある餃子の餡をスプーンで掬った。


祖母は丸い餃子の皮にほどよく餃子の餡を乗せて、手際よく包んでいく。

祖母が包んだ餃子はひだも均等で形が美しい。

ひだの間隔がまばらで餃子の餡がみっちりと入っているずんぐりとした餃子は、母親が包んだものだろう。


悠里は不器用なので、餡を少なめに皮に乗せないと綺麗に包めない。

父親は餡が少ない悠里の餃子を一口で食べられて食べやすいと言ってくれる。

祖父には餡が少ないと文句を言われたことが一度だけあるけれど、その餃子は悠里が不器用ながら頑張って包んだものだと知ってからは文句を言わなくなった。


悠里が餃子を一つ包み終わって皿に置く。

祖母はその間、三つ綺麗に包み終わっている。

銀色のボウルには餃子の餡がまだたっぷりと入っている。


「餃子って包むの大変だし、時間が掛かるのに食べる時はあっという間だよねえ」


丸い餃子の皮の淵に、小皿に入った水をつけながら悠里はぼやいた。

祖母は餃子を包む手を止めずに苦笑する。


「料理は皆、そんな物よ。苦労して作っても、食べるのは一瞬。でも、家族がおいしそうな顔をして食べてくれるのを見ると、頑張って作ってよかったと思うのよ」


悠里は祖母とおしゃべりをしながら餃子の餡を包み、そして、包む皮がなくなって、餡が入っていた銀色のボウルは空になった。





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