【風月の月の色】第四百九十九話 マリー・エドワーズと真珠はうっかり夜遊びをしてしまい、家族に怒られたくなくて家に帰るのを渋る
マリーとクレム、真珠は復活の魔方陣がある部屋を出て礼拝堂に足を踏み入れる。
……礼拝堂には誰もいない。
神官の姿や祈りを捧げるNPCの姿が無い。
ただ、復活の魔方陣がある部屋から教会の外に出るために歩いているマリーたちだけがいる。
しんと静まり返った薄暗い礼拝堂を見て、マリーは初めて、今は夜になっているのかもしれないと思った。
「クレム。もしかして今、ゲーム内時間って夜かも……?」
マリーが恐る恐るそう口にすると、クレムはアイテムボックスから懐中時計を取り出して時間を確認した。
「今は6時11分。ゲーム内時間の『真夜中』だな」
真夜中!? 夜ですらなく、真夜中とクレムは言った。
マリーは信じられなくて信じたくなくて、口を開く。
「嘘っ!? 私と真珠がラブリーチェリーの種を庭に埋めた時は青空だったのに!! 種を埋めた後、お父さんからお昼ご飯を食べるように言われてたんだよ!! それがなんで今、夜どころか真夜中なの!?」
「そこから時間が経ったんだろ。さすがに真夜中に家に遊びに行くわけにはいかないよなあ。オレは錬金術師ギルドの寮に戻るよ」
「待って。見捨てないで。クレム。私と真珠、真夜中まで家を空けていたことを怒られる。この前、お母さんに『糸が切れた凧みたい』って怒られたばっかりなのに……っ」
マリーの言葉を聞いた真珠はマリーと自分が怒られるらしいと知ってびっくりした。
クレムは『凧』という言葉を聞いて笑顔になり、口を開く。
「『アルカディアオンライン』に凧あるんだ? へえー。欲しいなあ。凧。凧上げしたい。オレ、一回だけ凧上げしたことあるんだぜ」
「私もクレムと同じこと思ったけど!! 今は凧の話はどうでもいいから!!」
マリーとクレム、真珠は薄暗い礼拝堂を出て、教会を出た。
「真っ暗……」
マリーは夜空を見上げて絶望しながら呟く。
正確には街灯に明かりが灯っているので真っ暗ではない。だがマリーの心境としては『真っ暗』だ。
どう考えても怒られる未来しか見えない。
風月の月の色は暗い緑色だった。
教会前に佇み、歩き出そうとしないマリーを見て真珠も同じように月を見上げる。
月を見上げているマリーと真珠を見やり、クレムはため息を吐いた。
「マリー。真珠。月を眺めて現実逃避してても状況は悪くなる一方じゃね?」
「そんなことわかってるよ!! でも私は怒られたくないの!! なんでゲームの中でまで怒られなくちゃいけないの!! 夜遅くまで遊ぼうと思ってたわけじゃないのに!! ただうっかり死に戻ってピザのレシピをゲットしていただけなのに……!!」
「きゅうん……」
逆ギレしたマリーに、項垂れる真珠。
リアルで『ゲームで遊びすぎる』と母親に怒られまくっているクレムは怒られたくないとキレまくるマリーと、怒られるかもしれないと思ってしゅんとしている真珠の気持ちがよくわかる。
クレムはマリーと真珠がNPC家族から怒られずに済む方法を考え始めた。
***
風月8日 真夜中(6時15分)=5月20日 16:15
風月の月の色は暗い緑色である。
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