第四百九十八話 マリー・エドワーズは真珠とクレムと一緒に情報屋の『ルーム』を出てクレムと『ラブリーチェリーの軸』と情報を知ることの大切さについて話す



「真珠。そろそろおうちに帰ろう」


マリーはクレムに抱っこされて『識別の虫眼鏡』を覗き込み、楽しく『ルーム』で遊んでいる真珠に呼びかけた。

真珠はまだ遊びたかったので首を横に振る。

マリーは真珠の気を引くために、一計を案じて口を開いた。


「今、おうちに帰ったらスロットで遊ばせてあげるんだけどなあ。ベッドの側にスロットを置けば椅子がなくても真珠が楽しく遊べそうな気がするんだけどなあ」


「わうっう……!!」


マリーにスロットマシーンで遊べると聞かされて真珠の心は揺れた。

虫眼鏡で遊ぶのも楽しいけれど、真珠はスロットでも遊びたい……!!


「スロットってなに? オレも遊びたい」


マリーは話に食いついたクレムを巻き込むべく、微笑んで口を開く。


「じゃあ、クレムも一緒に『銀のうさぎ亭』に来る? 私がお祖母ちゃんとピザを作っている間、真珠とクレムはスロットマシーンで遊べばいいよ」


「オッケー。それ、楽しそう。真珠。オレと一緒にスロットで遊ぼうな。マリー。虫眼鏡を返すよ」


クレムはそう言いながら持っていた『識別の虫眼鏡』をマリーに差し出し、マリーは虫眼鏡をアイテムボックスに収納した。

真珠はクレムの腕の中から飛び下りて見事に着地する。


「情報屋。オレたち、行くよ。じゃあな」


「さよなら。情報屋さん。またね」


「わんわんっ」


「気をつけて帰ってくださいね」


情報屋は微笑んで言い、マリーと真珠、クレムは情報屋の『ルーム』を後にした。


真珠の吠える声で動く階段は上へと動き始め、ご満悦な真珠は動く階段を駆け上る。

リアルで動いているエスカレーターを駆け上るなんて危ないけれど、これはゲームだ。危険なことをやってもいいし、危ないことを楽しんでいい。


マリーは動く階段を駆け上って転んでなけなしのHP1が0になり、死に戻るのが嫌だったので階段を上っていく真珠の後は追わず、階段を上り切るまでのんびりとクレムとお喋りをすることにした。

クレムはマリーに視線を向けて口を開く。


「そういえばさ、ラブリーチェリーの茎って使い道があるの? 種はマギーが埋めて芽が出たって聞いたけどさ」


「ラブリーチェリーのくき?」


「細い、緑の、実がついてるアレ。茎だろ?」


「ちょっと確認させて。ステータス」


マリーはアイテムボックスから『ラブリーチェリーの軸』を取り出して右手の手のひらの上に乗せ、クレムに見せた。


「クレムが言ってたのってこれ?」


「そう。それ。茎だよな? 違う?」


「アイテムボックスの表示には『ラブリーチェリーの軸』って出てるよ」


「えっ? そうなのか? ステータス。……本当だ。へえー。この漢字って『じく』って読むんだ」


クレムが感心している間にマリーは『ラブリーチェリーの軸』を左腕の腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納した。


「ラブリーチェリーの軸の使い道の話だったよね。それが、私にもわからないの。でもラブリーチェリーの軸のアイテムランクがBランクなんだよね」


「マジか!! すげえ。軸だけでも貴重品じゃん。オレ、ゴミかと思ってテーブルに投げ捨ててたら情報屋が軸を回収しようとしててさ。それを真珠が阻止してくれて、だから軸も回収できたんだよ」


「そうだったんだ。情報屋さんはラブリーチェリーの軸のアイテムランクがBランクだって知ってるからねえ」


「そっかぁ。真珠が止めてくれなかったらオレはアイテムランクがBランクの貴重品って知らずに情報屋に『ラブリーチェリーの軸』を取られてたんだよな。情報って大事で、知ることって大切なんだな」


「そうだね。私、記憶力が良くないからあんまりいろんなことを覚えていられないけど……」


「落ち込むなよ。マリー。『アルカディアオンライン』ではステータス値の能力補正があるぜっ。オレ、錬金のスキルレベルが上がってINT値が上がるにつれて記憶力が上がってる感じがするんだ。リアルには持ち越せてないっぽいのが残念なんだけどなあ」


「『アルカディアオンライン』の能力値補正がリアルに持ち越せたら最高だよね!! プレイヤーは皆、天才になれるねっ!!」


マリーとクレムがお喋りをしていると、階段を駆け上って行った真珠が戻ってきた。

真珠はひとりぼっちでマリーとクレムを待っているのが寂しかったのだ。

そしてマリーとクレム、真珠は揃って階段を上り切り、フローラ・カフェ港町アヴィラ支店を後にした。


***


風月8日 真夜中(6時10分)=5月20日 16:10



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る