第四百八十八話 マリー・エドワーズは最大HP値が元に戻っていることに気づいた後にデメリットスキル『大泣き』のスキル内容を読み上げる

「クレムくんからマリーさんが売りたい情報があると聞いているのですが、話していただけますか?」


情報屋は向かい合って座るマリーに視線を向けて口を開いた。

クレムとマギーの同席を既にマリーが了承しているので、誰も席を立たずに情報屋とマリーの話を聞いている。

マリーは情報屋に肯き、それからステータス画面を出現させた。

ステータス画面の『HP1/1』と『デメリットスキル』の項目を見ながら情報屋に話をしようと思ったからだ。

ステータス画面には『HP1/1』と記載されているはずだったのだが……。


「え……っ!? 最大HP値が元に戻ってる……!!」


マリーは自分のHP値を見て思わず叫んだ。

マリーのステータス画面には『HP1/16』と記載されている。


「マリー。まずは『デメリットスキル』のことを話せよ」


予期せぬ数値を見てパニくってしまったマリーをクレムが宥める。

マリーはクレムの言葉に肯き、情報屋に視線を向けて口を開いた。


「あの、私、いつの間にか『デメリットスキル』というものを取得していたんです」


マリーの言葉を聞いた情報屋は眉をひそめて口を開く。


「『デメリットスキル』はゲームのプレイに重大な影響を及ぼす物なので『デメリットスキル』習得時にサポートAIからのアナウンスがあるはずです。何も無かったんですか?」


「私、『デメリットスキル』の『大泣き』を取得したっぽい時、めちゃくちゃ泣いてたのでサポートAIさんのアナウンスとか全然気づかなかったです……」


マリーはしょんぼりと項垂れて言う。


「『デメリットスキル』の『大泣き』ですか。私が知らない情報です。スキルの詳細を教えて頂けますか? 対価をお支払いしますので」


「はいっ。喜んで!!」


ジャケットの内ポケットから黒皮の手帳と万年筆を取り出しながら言う情報屋に、マリーは満面の笑みで答える。


「マリーちゃん。居酒屋の店員みたいね……」


マギーは小さな声で呟いた。

未成年の悠里は居酒屋に入ったことが無いが、ドラマやコント等で見た『居酒屋の店員』は笑顔ではきはきと『はいっ。喜んで!!』と言っていた気がする。


コロナ禍の今は、居酒屋も営業時間を短縮したりして大変だとニュースで聞くし、居酒屋の店員は大きな声を上げて明るく接客をすることを躊躇ってしまったりするのかもしれない。


「マリー。『大泣き』はどんなスキル内容なんだ?」


「わうー。わんわんっ」


クレムと真珠はマリーがデメリットスキル『大泣き』の説明文を読み上げるのをわくわくしながら待っている。

黒皮の手帳を開き、万年筆を手にした情報屋はマリーを見つめて肯いた。

マリーは情報屋が書き取る準備を終えたことを確認して『デメリットスキル』の項目に記載されている『大泣き』の文字をタップした。

新たな画面が表示される。





大泣き



デメリットスキル。


5歳以上で何度も泣きわめき運命を切り開こうとする愚者に与えられる。

泣くことで周囲を振り回し、自らの望みを叶えようとすることの愚かさを知れ。


大泣きをしたその時から『スキルレベル×1時間』HP最大値が1になる。





「えっと、今の私の『大泣き』のスキルレベルは1になってます」


説明文を読み上げたマリーはそう言い添える。


「愚者とか愚かとか、結構キツいことが書いてあるのね……」


マリーが読み上げたデメリットスキル『大泣き』のスキル内容を聞いたマギーが呆れたように言った。


「これNPCが取得したら即座に死ぬやつじゃね?」


クレムの言葉にマリーは首が何度も高速で肯く。

真珠はマリーが何度も肯いているのを見て自分も肯いた。

マギーは高速で肯くマリーと真珠を見て可愛らしくて笑ってしまった。

情報屋はマリーが読み上げた内容を手帳に書きとめながら口を開く。


「HP最大値が1になるのが『スキルレベル×1時間』ということが、少しは救いになりそうですね。デメリットスキルのレベルを上げて最大レベルに達した時にどうなるのか見てみたいです」


「最大レベルって……やっぱりなんでもないです」


情報屋と世間話をすると情報料を請求される可能性があると知っているマリーは言いかけた言葉を呑み込み、自分の口を両手で塞ぐ。

マリーは今、借金をしていないけれど、でもお金は大事に使いたい。


「最大スキルレベル値は確か100だったはずよ。私のフレンドが教えてくれたわ」


マリーが尋ねたいことを察したマギーがそう言った。


「へえー。スキルレベルって100までしか上がんないんだ。ちょっと残念かなあ。オレ、今、錬金がレベル29なんだよなあ。あと71レベルしか上げられないのか……」


クレムがザ・ゲーマーという感じの意見を述べる。

レベル上げが好きなゲーマーはいるけれど、悠里はレベル上げを面倒くさいと思うタイプだ。

デメリットスキルのレベル上げをするのは絶対に嫌だ……。

マリーが遠い目をしてそんなことを考えていると、クレムがマリーに視線を向けて口を開いた。


「マリーの最大HP値が1から元に戻ったのはデメリットスキルの効果が切れたからだったんだな」


クレムの言葉に肯き、マリーは口を開く。


「そうかも。私が井戸で大泣きしてから一時間経ったからHP最大値1の地獄から抜け出せたのかも……」


HP最大値は元に戻ったが、実は今もマリーのHPは1なので、うっかりすると死に至るのだが、ここで死んでもすぐ近くの教会の復活の魔方陣の上に死に戻るだけなのでマリーは気楽に構えている。


***


風月8日 夕方(4時59分)=5月20日 14:59



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