第四百六十三話 マリー・エドワーズはカジノのスロットマシーンをアイテムボックスに収納し、ユリエルは男の死体をアイテムボックスから放り出して階段以外の脱出経路を探す

ヘヴンズカジノの壁の亀裂に気づいた客の一人が声をあげる。


「壁にヒビが入ってる……っ!?」


その一声でカジノ内の客に動揺が走る。

だが、真珠はそのざわめきに全く耳を貸さず、自分が王冠を三つ揃えたスロットマシーンの前にたどり着いて尻尾を振った。

『疾風のブーツ』を履いたマリーと種族レベルがマリーや真珠より高いユリエルは真珠に大きく遅れることなくスロットマシーンの前に到着する。


「カジノの建物が崩れる前にもう一回くらいスロットできそう?」


首を傾げながらマリーが言うと、ユリエルは交換カウンターに視線を向けて口を開く。


「受付カウンターの人たちもパニックになってるっぽいからコインを交換するのはもう無理かも……」


「くぅん……」


真珠はスロットで遊べないかもしれないと思ってしゅんとした。

カジノの壁の亀裂は広がり続けている。


「スロットマシーンを持って帰れたらいつでも真珠が遊べるのになあ」


マリーはダメ元で左腕の腕輪にスロットマシーンを触れさせた。

スロットマシーンはマリーのアイテムボックスに収納された……!!

マリーと真珠は目を丸くして、ユリエルは歓声をあげる。


「マリーちゃん、すごいな!!」


「わおん……っ!!」


「私、泥棒したからNPC善行値が下がったかも……」


マリーは少し落ち込んだ。


「でも、たぶんスロットマシーンはカジノが崩落したら壊れると思うし、私が貰っちゃってもいいのかな……?」


「ゲームでは『盗む』ことも技能の一つだし、いいと思うよ。『職業:シーフ』とかいるし、ゲームでツボとかタンスとか樽とか漁ったりするの面白いよね」


マリーはユリエルの言葉に肯いた後に『銀のうさぎ亭』に泥棒に入った人たちもノリノリで楽しく探索したのかもしれないと思って落ち込んだ。


壁の亀裂は広がり、天井にヒビが入っていく。

シャンデリアが落ちて運悪く、階段へと向かっていたNPCが下敷きになった。

NPCの顔や身体全体にモザイクが掛かっているのでプレイヤーの目にはシュールに映る。

シャンデリアに押しつぶされて死んだNPCをちらりと見て、ユリエルは口を開いた。


「『アルカディアオンライン』はプレイヤーの痛覚設定が0パーセントだけど、さすがに圧死は怖いから魔力枯渇で死に戻る?」


「その前に、ユリエル様がアイテムボックスにしまった男を捨てた方がよくないですか?」


マリーは大好きなユリエルのアイテムボックスにNPCの死体が入っている状態であることがものすごく気になる。

死体がデータだとわかっていても、食べ物や回復薬等と一緒に死体が入っているのは嫌だ。

そう言うマリーのアイテムボックスには『孤王の領域』で拾いまくったゴミアイテムが整理されずに入れっぱなしになっている……。


「そうだね。もう、誰も血痕のこととか気にしてないだろうし、捨てちゃうね。ステータス」


ユリエルはステータス画面を出現させて、収納した男の死体を出してそのまま放置した。

死体の側にいるのは気持ちが悪かったので、マリーと真珠、ユリエルは放置した死体から距離を取る。


カジノは階段から脱出しようとする人たちでパニックになっていた。

避難誘導等は特にされていないようだ。

マリーはカジノ内を見回して口を開いた。


「私たちが入ってきた階段しか、出口って無いんですかね? 避難する扉とか無いのかなあ?」


「スタッフには避難経路とか知らされているかもしれないね。カジノの交換アイテムには貴重な物があるみたいだし」


天井から石礫のような瓦礫が降ってくる。

マリーはユリエルから借りた『ガード・アンブレラ』をアイテムボックスから取り出してユリエルと真珠、そして自分に差し掛ける。


「マリーちゃん。傘は俺が持つよ。マリーちゃんは真珠くんを抱っこしてあげて」


右手で魔銃を持ったユリエルがマリーにそう言って、左手を差し出した。

マリーはありがたくユリエルの申し出を受けて傘を彼に渡し、それから真珠を抱っこする。

真珠は大好きなマリーに抱っこしてもらえてほっとした。


天井から降る瓦礫はまるで雹のようにカジノ内に落ちていたるところに損傷を与えている。

真珠を抱っこしたマリーと左手に傘、右手に銃を持ったユリエルはカジノのスタッフが出入りする扉を探して歩き始めた。


***


マリーはカジノのスロットマシーンを取得


紫月28日 早朝(1時12分)=5月17日 23:12



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