第四百六十二話 マリー・エドワーズとユリエルは『リジェネキャンディ』の味と効能を確認して、真珠は『リジェネキャンディ』を選ぶ



マリーと真珠、ユリエルは交換カウンターに到着した。

ユリエルはヘヴンズコインが入ったケージをカウンターの上に置き、口を開く。


「すみません。ヘヴンズコイン100枚を賞品と交換してもらいたんですけど……」


「承ります。コインの枚数を確認いたしますので少々お待ちください」


受付カウンターにいたクラシカルメイドスタイルの女性がそう言って、コインケースを取り出してヘヴンズコインを手早く数える。

マリーは真珠を抱っこして背伸びをした。

マリーも真珠もちょっとだけカウンターの上が見られる。


「お客様。ただいま踏み台をお持ち致します」


マリーと真珠の様子に気づいた別のカウンター受付スタッフがマリーと真珠のために踏み台を用意してくれた。


「ありがとうございますっ」


「わうわううわううわっ」


「どういたしまして」


踏み台を用意してくれた女性スタッフは、お礼を言って頭を下げたマリーと真珠に微笑んだ。

マリーはカジノに踏み台が用意されているのが不思議で、首を傾げて口を開く。


「カジノって踏み台があるんですね」


「様々な種族の方が当カジノにいらっしゃるので、踏み台をご用意しています」


「そうなんだ。私と真珠みたいに小さい子には嬉しいね」


狩人ギルド等には踏み台がなく、薬師ギルドにしか踏み台が無いことを知っているマリーは彼女の言葉に感動した。

真珠を抱っこしたマリーが踏み台に乗った直後にコインを数え終えたスタッフが口を開く。


「ヘヴンズコインを100枚、確認致しました。ヘヴンズコイン100枚で交換できるのは『上級体力回復薬』『上級魔力回復薬』『リジェネキャンディ』『レースのハンカチ(クリーンの魔方陣の刺繍付き)』『スネークナイフ』となります」


スタッフはそう言いながらカウンターの上に品物を並べる。


「わんわわうわ!!」


真珠はチラシで見た綺麗な花が欲しかったので、花の名前を叫ぶ。

受付スタッフは幼女が抱っこしている子犬のようなテイムモンスターが発した謎のワードを理解できず困惑した。


「『アンブロシア』っていう綺麗なお花はありますか?」


真珠の主であるマリーは真珠が言いたいことを理解し、通訳して受付スタッフに伝える。


「『アンブロシア』はヘヴンズコイン10000枚が必要となります」


「ヘヴンズコイン10000枚……っ」


マリーは『アンブロシア』の予想外の貴重さに驚く。

真珠はマリーを見つめて首を傾げた。


「わうー。くぅん?」


「あ、えっと、綺麗なお花の『アンブロシア』と交換するにはコインが足りないんだって」


「きゅうん……」


マリーの説明を聞いた真珠は『あんぶろしあ』を貰えないと理解して項垂れる。

ユリエルは耳がぺたんと頭にくっついてしまった真珠の身体を優しく撫でて口を開いた。


「真珠くん。がっかりしているところ悪いんだけど、できれば早めに交換する物を選んで欲しい」


ユリエルはそう言った後、真珠の耳に唇を寄せて小さな声で言葉を続ける。


「龍の攻撃でカジノが壊れてしまうかもしれないから」


ユリエルの言葉を理解した真珠は肯き、そして真剣に交換するアイテムを選び始めた。

マリーはユリエルが真珠に言った言葉が聞こえなかったので、何を言ったのか後で聞こうと思いながら真珠を見守る。

真珠は迷った末に『リジェネキャンディ』を指し示す。

真珠の鼻は『リジェネキャンディ』が入った瓶から微かに漏れ出る甘い匂いを捉えていた……!!


「真珠は『リジェネキャンディ』と交換したいの?」


「わんっ」


マリーに問いかけられた真珠は力強く肯く。

マリーは真珠に微笑んで口を開いた。


「『リジェネキャンディ』はおいしそうだもんねえ。あの、何味のキャンディですか?」


「いちごみるく味と聞いています」


『リジェネキャンディ』の効能より先に味を確認したマリーが可愛いと思いながらユリエルは受付スタッフを見つめて口を開く。


「『リジェネキャンディ』の効能を教えてください」


「かしこまりました。『リジェネキャンディ』の効能はキャンディを一つ舐めると、舐めた時から30分間、1秒につきHPが1/MPが1回復するとのことです」


「すごいっ。いちごみるく味なだけじゃなくて回復効果もすごいんだねえ。真珠は良いアイテムを選んだね」


「わんっ」


マリーに褒められた真珠は嬉しくて吠えた。


「じゃあ、私が真珠の代わりに『リジェネキャンディ』を持っておくね。いい?」


マリーに問いかけられた真珠は肯く。

マリーは真珠が肯いたことを確認して、左腕の腕輪に『リジェネキャンディ』が入ったガラス瓶を触れさせた。

『リジェネキャンディ』が入ったガラス瓶はアイテムボックスに収納され、カウンターの上から消えた。


受付スタッフはガラス瓶が消えた瞬間、表情を強張らせたが、マリーの左手の中指の付け根に天使の羽根のような痣があるのを見て、この幼い少女は『聖人』なのだと思い至る。


ヘヴン島にも教会からの通達が届いていて、ヘヴン島で働くすべてのスタッフは、ヘヴン島の支配者から『聖人を丁重にもてなし、決して教会と対立しないこと』と刻みつけられている。


『リジェネキャンディ』が入ったガラス瓶をアイテムボックスに収納したマリーは受付スタッフに微笑んで口を開く。


「踏み台を用意してくれたお姉さんに、ありがとうって伝えてください。真珠。またスロットマシーンで遊ぼうね」


「わんっ」


真珠はマリーの言葉に肯き、そしてマリーの腕の中から飛び下りてスロットマシーンが並んでいるコーナーへと走り出す。

マリーとユリエルは走って真珠の後を追いかけたその時、カジノの壁がみしりと鳴った。


***


マリーと真珠は『リジェネキャンディ』が入ったガラス瓶を取得


紫月28日 早朝(1時04分)=5月17日 23:04



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