第四百四十六話 高橋悠里は祖父に花束を受け取るように頼み、祖母が晩ご飯ができたと呼びに来る

悠里が目を開けると、自室の天井が視界に入る。

どうやら無事にログアウトできたようだ。


母親にゲームで遊んでいるところを見つからなくてよかったと思いながら、悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。

それからゲーム機の電源を切った。

ヘッドギアとゲーム機をつなぐコードはそのままにしておく。

通常ログアウトできたから、プレイヤー善行値が少し上がっていることだろう。

そろそろプレイヤーレベルが上がってほしいと思いながら、悠里はゆっくりと首を回した。


「ちょっと身体が強張ってる気がする……」


悠里は大きく伸びをして、屈伸を三回した後、机の上に置いていたスマホで時間を確認する。


「今の時間は17:35かぁ。とりあえずダイニングに行ってみようかな」


悠里は一階に行き、トイレに入った後にダイニングに向かう。


ダイニングに足を踏み入れた悠里は首を傾げて口を開いた。


「誰もいない……」


祖父も祖母も、母親もダイニングにはいない。

祖父はリビングか和室に、母親はキッチンにいるのかもしれない。

祖母はまだゲームをプレイしているのだろうか。

悠里は少し迷って、リビングに向かった。


リビングには祖父がいた。

テレビに座ってニュースを見ている。ニュースは、相変わらず新型コロナとオリンピックの話題ばかりだ。


「悠里。来たのか」


リビングに現れた悠里に気づいてソファーに座っていた祖父が微笑む。

悠里は祖父の隣に座り、祖父を見つめて口を開いた。


「あのね。私、お祖父ちゃんにお願いがあるの」


「お願い? なんだ? 何か欲しい物があるのか?」


「ううん。そうじゃなくて。私ね、お祖母ちゃんとお母さんに花束を贈ろうと思って頼んだの」


「そうか。お祖母ちゃんは花が好きだから喜ぶと思うぞ」


祖父はそう言って、嬉しそうに微笑む。

祖父は本当に、祖母のことが大好きだと思いながら悠里は口を開いた。


「それでね。花束は置き配で届くと思うんだ」


「おきはい? それはどういう意味だ?」


「置き配っていうのは、ええと、家の前に荷物を置きっぱなしにする……みたいな感じ」


「不用心だな」


祖父は腕組みをして不機嫌に言う。


「再配達とか大変だから、そういうシステムにしたんじゃないかな。たぶん。それでね、花束はいつ届くかわからないの。だからね、お祖父ちゃんに気にかけてもらいたいなあと思って。お母さんとお祖母ちゃんには内緒にして驚かせたいの。花束、届いたらお祖父ちゃんからお祖母ちゃんとお母さんに渡してあげて。私、学校に行っているときに届くかもしれないから」


「わかった。任せておけ」


祖父は力強く肯いて請け負う。

悠里は祖父に微笑んで、一緒にテレビのニュースを見ているとリビングに祖母が現れた。


「あら。悠里。お祖父ちゃんと一緒にいたのね」


「お祖母ちゃんっ。お祖母ちゃんも座って。それでゲームの話を聞かせて」


「晩ご飯を食べながら話すわね。お母さんがシチューを作ってくれたから、ダイニングに行きましょう」


「なんだ。シチューか……」


祖母の言葉を聞いた祖父が、あからさまにがっかりした顔をする。


「ごめんね。お祖父ちゃん。私がお祖母ちゃんのシチューを食べたいって言ったの。でもお祖母ちゃんの代わりにお母さんが作ったシチューになったの」


悠里がシチューを食べたくて晩ご飯のメニューがシチューになったので、祖父に悪いことをしたと思いながら謝ると祖父は機嫌を直した。


「悠里がシチューを食べたいなら、仕方ないな」


「お母さんの前で晩ご飯のメニューに文句を言ったらダメよ。頑張って作ってくれたんだから」


祖母に注意された祖父は面倒くさそうに肯いてリビングを出て行く。

悠里と祖母は祖父の後に続いた。



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