第四百四十四話 高橋悠里は『アルカディアオンライン非課税等法案』について聞き、6月1日より『アルカディアオンライン物流センター』が稼働することを知る



「次に『アルカディアオンライン・プロジェクト』からの重要なお知らせをお伝えします。宜しいですか?」


「よろしいです。お願いします」


「『アルカディアオンライン』の総プレイヤー数が3500万人を突破したことを受けて『アルカディアオンライン・プロジェクト』は『アルカディアオンライン非課税等法案』の成立を目指してチームを立ち上げ、国会議員の方々に働きかけて参ります。『アルカディアオンライン非課税等法案』の内容は『アルカディアオンライン』公式サイトに掲載しています。内容を確認してご賛同いただけるプレイヤーは賛同の意思表示をお願いします」


「なんか難しそう……。『アルカディアオンラインひかぜいとうほうあん』ってなんなの?」


「『アルカディアオンライン』のプレイヤーが『アルカディアオンライン』で得た収入に対して税金をかけないという内容を含めた法案になります」


「私が『アルカディアオンライン』で貰ったお金って、税金を払わなくちゃいけないの!?」


悠里は驚愕して震える。


「現行法ではそうなります。年間で20万円以上の収入を得た場合、確定申告が必要になります」


「でも20万円なんて大金、私はたぶん稼げないと思うから大丈夫だよね?」


「『アルカディアオンライン・プロジェクト』はプレイヤーが一攫千金を得ることを応援しています」


「うん。それは前にも聞いた……。『アルカディアオンライン』で貰ったお金、税金を払わなくてよくなるなら、私『アルカディアオンラインひかぜいとうほうあん』に賛同します」


「ご賛同ありがとうございます。『アルカディアオンライン非課税等法案』に賛成する者として、高橋悠里様の氏名と住所を名簿に記載しても宜しいですか?」


「名簿には……書かないでください。ごめんなさい」


「かしこまりました。名簿への記載は致しません」


「よかった。ありがとうございます」


悠里はほっとして息を吐く。

難しいことはよくわからない。よくわからないことに名前と住所を記載するのは怖い。

『アルカディアオンライン』の規約を全く読まずにプレイヤーになった悠里だったが、多少の危機管理能力はあるのだ。


「『アルカディアオンラインひかぜいとうほうあん』が成立するといいね」


「『アルカディアオンライン・プロジェクト』スタッフは『アルカディアオンライン非課税等法案』を成立させてみせると意気込んでいます。不織布マスクに比べたら役に立たない布マスクを巨額の税金を使って作り、不良品をつかまされた挙句、余ったマスクを倉庫に保管して莫大な保管費用を払っているような政治家や官僚に税金を渡すくらいなら『アルカディアオンライン』プレイヤー個々人にお金を払う方が日本と日本に住む人たち全員にとって有益です」


「あの役に立たない布マスク、余ってて今も保管されてるの!? うわあ。無駄すぎる……」


高橋家にも布マスクが送られてきたけれど、不織布マスクでなければウィルスをカットできないと知ったので、開封せずに引き出しにしまっている。


「引き続き『アルカディアオンライン・プロジェクト』からの重要なお知らせをお伝えします。宜しいですか?」


「よろしいです。お願いします」


「6月1日より『アルカディアオンライン物流センター』が稼働します。これに伴い、コロナ禍で飲食店からの取引がなくなった食材・酒類・牛乳等を『アルカディアオンライン・プロジェクト』で買い取りを致します。また、豊作により野菜の出荷量が増えて困っている農家からの買い取りも致します。買取希望の農家・事業者はワタシにご相談ください。これに伴いGP交換リストに『食材ボックス』『酒類ボックス』が追加されましたのでご確認ください」


「そうなんだ。GP交換リストを表示してください」


「かしこまりました。GP交換リスト一覧を表示致します」


悠里の目の前にGP交換リスト一覧が表示される。

悠里はリストに追加された内容を声を上げて読み上げた。


「『食材ボックス』が10GPなんだ。食材内容指定不可/置き配/期日指定不可/※要アレルギー報告って書いてある」


「『食材ボックス』と『酒類ボックス』は『アルカディアオンライン物流センター』が買い取った商品をプレイヤーに配送する形になります。非推奨ですが、プレイヤーの自己責任での転売も可能です。プレイヤーが長期に家を空ける場合はワタシに報告していただく必要があります」


「そうなんだ。私はお酒飲めないし、お父さんやお祖父ちゃんがお酒を飲むと臭くて嫌だから『酒類ボックス』はどうでもいいかなあ」


なんで大人はあんなに臭くなるお酒を飲むのだろうか。

中学生の悠里には全く理解できない。

絶対にジュースとかカフェラテの方がおいしいと思う。

悠里はそう考えて、腕組みをして力強く肯いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る