第四百四十二話 高橋悠里は要にメッセージを送り、中間テストの勉強をしながら要からの返信を待ち、要からの返信が来て喜ぶ
「要先輩、もうおうちに着いたかなあ……?」
悠里は自室のベッドに座り、スマホの画面を見つめながら呟いた。
要は悠里と放課後デートをした帰りはいつも、悠里を家まで送ってくれる。
悠里も要を彼の家まで送りたいと思うのだけれど、そう言うたびに要は困ったように言うのだ。
『悠里ちゃんが俺を家まで送ってくれたら、帰り道は一人になるよね。悠里ちゃんは俺の大事な女の子だから、一人で歩かせるのは心配なんだ』
要にそう言われると、悠里は嬉しくて、でもなんだか泣きたくなって言葉に詰まってしまう。
「……要先輩に会いたいな」
さっき要と別れたばかりなのに、もう会いたい。
悠里は要を大好きな気持ちを込めて、心を込めて、要へのメッセージを書き始める。
♦
要先輩。家まで送ってくれてありがとうございます。
カフェデート、楽しかったです。要先輩と一緒だと、楽しくて時間が早く過ぎる気がします。
今日は『アルカディアオンライン』で遊びますか?
私のお祖母ちゃんは『人魚』になって遊んでいるらしくて、ゲームの話を聞くのが楽しみです。
♦
悠里はメッセージを読み直して、要に送信した。
「要先輩から返信が来るまで、中間テストの勉強しよう」
悠里はそう言いながらベッドから立ち上がって机にスマホを置き、自分用のノートパソコンを机の端に寄せて、充電していた学校で使っているノートパソコンを机の上に置く。
ノートパソコンを開いて起動させ、サポートAIの認証を受けて数学の授業の内容を記載したデータと数学の教科書のデータをパソコンの画面に表示される。
「紙のノートに書いてた方が、なんか覚えられたような気がするなあ……」
愚痴を零しながら、悠里はノートに記載された問題を何度も繰り返し計算して答えをノートに記載する。
算数は丸暗記して乗り切ってきた。数学も暗記でなんとか頑張りたい。
『算数は丸暗記で頑張る』と言うと、悠里に勉強を教えてくれた幼なじみの圭は悠里の頭を撫で、憐みの目を向けた……。
「……疲れた。勉強嫌だ」
そう言いながらスマホを手に取ると、時間は17:18と表示されている。
要にメッセージを送り終え、勉強を開始して15分くらいしか経っていない。
……要からの返信は来ない。
悠里がスマホの画面を見つめてため息を吐いた直後、スマホが鳴った。
「要先輩から返信が来た……っ」
悠里は喜びの声を上げ、要からのメッセージを表示した。
♦
悠里ちゃん。メッセージをありがとう。
俺もカフェデート、楽しかったよ。奢ってくれてありがとう。
次は俺が払うからね。
中間テストの勉強をしたいので『アルカディアオンライン』は夜の9時半くらいからプレイしようと思ってる。
時間が合えば、悠里ちゃんと一緒に遊びたいけど、予定とかあったら無理しないでね。
ゲームをプレイする時にはリアルとゲーム内で悠里ちゃんにメッセージを送るね。
『人魚』主人公で遊んでいるお祖母ちゃんの話、よかったら俺にも聞かせて。
それから、悠里ちゃんに伝えるか迷ったんだけど、伝えることにするよ。
さっき、篠崎から俺のスマホにメッセージが届いた。
『悠里ちゃんに謝っていたと伝えてほしい』って。
篠崎は悪い奴じゃないけど、悠里ちゃんを傷つけないようにそっとしておくことより、自分の罪悪感を軽くすることを選んだんだと思う。
だから、悠里ちゃんは篠崎のことは気にしないで。
俺は佐々木先輩の肩を持つ篠崎のことは放置でいいと思う。
ゲームをプレイする時に、またメッセージを送るね。
♦
悠里は『俺は佐々木先輩の肩を持つ篠崎のことは放置でいいと思う』という文章を読んで笑い声をあげた。
「そうだよね。佐々木先輩の肩を持つ篠崎先輩のことなんか、今は放置でいいよね」
萌花は美羽が言いがかりに近い理由で悠里に意地悪をしていたことを知りながら、美羽を庇い続けていたのだ。
少しくらい、仕返しに無視し続けてもいいと思う。
悠里は要からのメッセージをにこにこしながら読み返し、そしてスマホを机の上に置いて伸びをした。
「勉強を頑張ったし、要先輩からのメッセージを読んだからちょっとだけ『アルカディアオンライン』をプレイしよう」
悠里はそう呟いて、ノートパソコンをシャットダウンして立ち上がった。
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