第四百四十話 高橋悠里と要が校長室を出て行った後、萌花は校長先生と話す
「あたし……高橋ちゃんに嫌われちゃった……」
悠里から電話番号を着信拒否にして、アドレスをブロックすると言われた萌花は頭を抱えて呻く。
矢上先生は頭を抱えて呻く萌花を呆れたように見やり、口を開いた。
「それは仕方ないだろ。加害者の佐々木を庇えば、被害者の高橋の心を傷つけることになる」
矢上先生の言葉を聞いた兵頭さんが目を伏せる。
「私、今まで『いじめを傍観していた生徒もいじめの加害者だ』という言葉は大げさで間違っていると思っていたんです。でも、さっきの高橋さんの反応を見て、加害者を庇ったり、被害者を助けなかった場合、被害者から見たら加害者とたいして変わらないと思われるんだとわかりました」
「兵頭さん。今、めちゃくちゃあたしのことディスってます……?」
頭を抱えていた萌花は顔を上げて恨めし気な視線を兵頭さんに向けた。
兵頭さんは首を横に振り、口を開く。
「すみません。そういうつもりではなかったんですけど。でも、人間関係のトラブルは難しいですね」
兵頭さんがそう言った直後、矢上先生が小さく手を上げて口を開いた。
「申し訳ないですが、俺はもう退出していいですか? 仕事が山積みなもんで。職員室に戻ってから佐々木に『明日、篠崎と一緒に校長室に来るように』ってメッセージを送っておきます」
矢上先生の言葉を聞いた校長先生は肯き、口を開く。
「わかりました。佐々木さんへの連絡は吹奏楽部の顧問である矢上先生にお任せします。どうぞ、仕事に戻ってください」
「ありがとうございます。失礼します」
矢上先生はそう言って、足早に校長室を出て行った。
兵頭さんはペンをジャケットのポケットにしまい、机の上に置いたノートを校長先生の前にスライドさせて口を開いた。
「私も、学校司書の業務に戻ります。ノート、校長先生にお預けしますね。明日の佐々木さんとの話し合いの席に私も同席した方が宜しいですか?」
「ぜひ、お願いします」
「わかりました。では明日の放課後、校長室に参ります。失礼します」
兵頭さんは会釈をして校長室を出て行く。
校長先生はボイスレコーダーとノートを校長室の机の引き出しにしまい、鍵を掛け、鍵を背広の内ポケットにしまった。
「……校長先生。明日、美羽先輩……佐々木先輩に部活を引退するようにって言うんですか?」
校長室に残った萌花は校長先生に視線を向けて問いかける。
校長先生は萌花の向かい側のソファーに座って口を開く。
「明日は佐々木さんに『吹奏楽部を引退することを検討してください』と言うつもりです。佐々木さんの中間テストの結果を見て、また話し合いの機会を持てればと思っています」
「中間テストの結果が、部活の引退と何か関係あるんですか?」
校長先生は萌花に問いかけられて肯き、口を開いた。
「人間関係のトラブルを抱えている生徒は勉強に集中できなくなり、テストの点数が落ちる傾向があります。一年生の高橋さんは中学に入って初めてのテストなので比較対象が無く、成績が落ちたかどうか判断するのは難しいですし、彼女は一年生なので受験まで時間がありますが、佐々木さんは三年生で、来年には高校受験を控えています。だから、今のうちに佐々木さんが勉強に集中できる環境を整える必要があります」
受験。
校長先生の言葉が萌花の心に重く圧し掛かる。
二年生の萌花と違って、三年生の美羽にとって志望校に合格するために学力を高めることは大切なことだと思う。
萌花はため息を吐いて口を開いた。
「美羽先輩と一緒に夏のコンクールに出たいっていうのは、あたしのわがままなんでしょうか。一年前、吹奏楽部の夏のコンクールが新型コロナのせいで中止になって、秋のアンサンブルコンクールも文化祭も中止になって、吹奏楽部の部員がどんどん減って行って……それでも次の夏のコンクールに一緒に出ようって言って頑張って練習してきたのにな……」
「明日の話し合いの中で、佐々木さんが篠崎さんとコンクールに出たいと言ってくれたらいいですね」
「……はい。あの、あたしもそろそろ帰ります」
萌花は校長先生に一礼して通学鞄を持ち、校長室を後にした。
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