第四百三十五話 高橋悠里は昼休みに幼なじみの晴菜が『ざまあ返し』をされる現場に居合わせる
幼なじみの晴菜とお喋りをしながら登校した悠里は朝のホームルームを終え、午前中の授業を終えて給食をおいしく食べ、いつも通りの昼休みを過ごそうとしていた。
新型コロナが蔓延してからはずっと、1年5組の教室にいるクラスメイトたちは特に仲の良い友達とだけ少人数で集まったり、一人でスマホを見たりしている。
悠里がいつものように晴菜とお喋りをしていると、男子生徒一人と女子生徒ふたりが教室に入ってきた。
「拓海くん。どうしたの? あたしに会いに来てくれたの?」
晴菜が男子生徒に目を向けて言う。
マスクをしていても美人な晴菜がマスクをしていてもイケメンが漏れ出ている恋人の氷川拓海に話しかけたことで教室内はざわついた。
「晴菜。昨日会った二人が晴菜に謝りたいっていうから連れてきた」
悠里は晴菜と拓海の話の邪魔にならないようにさりげなく距離を取り、聞き耳を立てる。
悠里が誰とも付き合っていない状態だったら、教室にかっこいいカレが会いに来てくれる晴菜を羨ましく思って心を痛めていたかもしれないけれど、今の悠里には素敵な恋人がいる。
だから、美男美女のカップルに対して羨ましい気持ちは欠片もなく、乙女ゲームのイベントみたいとわくわくしながら晴菜と拓海を見つめることができた。
でも、デートの邪魔をしたことをわざわざ謝りに来てくれるなんて、いい人たちだなあと悠里は思う。
女子二人が悪役ロールをしてくれないと乙女ゲームイベントっぽくならなくて残念だけど、でもリアルでは平和なのが一番だよね。
「氷川くんのカノジョさんに、わたしたち、直接謝りたかったの。ごめんなさい」
「デートの邪魔をしてごめんなさい」
女子二人はそう言って晴菜に頭を下げた。
晴菜は昨日、しつこく拓海を遊びに誘っていた女子ふたりが殊勝に頭を下げる姿を見て警戒する。
謝罪を終えた女子ふたりは頭を上げ、互いに視線を合わせた。
そして、ふたりの女子のうちの、背が高い方が話し始める。
「謝れてよかった。じゃあ、わたしたち、これから生徒会をやめるって白神石先生に話してくるね」
「どういうこと? 生徒会をやめるの? 三輪さんも多賀谷さんも?」
生徒会に所属している拓海は慌てた様子で言う。
女子二人は肯いた。
「わたしたちだけじゃなくて、亜美ちゃんと沙羅ちゃんもやめるよ。わたしたち、生徒会よりクラスの子たちと遊ぶことを優先したいと思ったの」
そう言いながら、女子ふたりは晴菜に意味深な視線を向ける。
「ちょっと待って。中間テストが終わったらすぐに球技大会があるのに。そんなに一気にやめられたら、球技大会実行委員会が回らなくなる……っ」
「そんなの、わたしたちには関係ないから」
「そうそう。生徒会の雑用は善意でやってただけだし。じゃあね。氷川くん。カノジョさんと仲良くね」
女子二人はそう言って颯爽と教室を出て行った。
彼女たちが去った後、晴菜は長いため息を吐いて口を開く。
「やられた。ざまあ返しされた。悔しい……っ。あの人たち、あたしに謝りたくて来たんじゃない。あたしと拓海くんに自分たちが生徒会をやめることを伝えるために来たのよ」
「晴菜。僕が彼女たちと話をしてみるよ。全員は無理でも、一人くらいは残ってくれるかもしれない」
拓海は晴菜にそう言って、慌ただしく教室を出て行く。
「はるちゃん。大丈夫……?」
晴菜と拓海の話の邪魔にならないようにさりげなく距離を取っていた悠里はおそるおそる晴菜に声をかける。
「大丈夫じゃない。やられた。生徒会に拓海くんを狙ってたっぽい女子が4人いるとか多すぎじゃない? しかも球技大会の前に一気に生徒会をやめるとか、嫌がらせが的確過ぎる……っ」
「好きな人にカノジョがいたら、生徒会とかやる気なくなる気持ちはわかるけど……」
悠里は思わず、生徒会をやめる女子二人側に立つ発言をしてしまう。
好きな人と一緒にいたくて、好きな人の役に立ちたくて生徒会の雑用をしていたのなら、好きな人に自分たち以外のカノジョができたことで女子たちが生徒会をやめたくなる気持ちはわかる。
「昨日、拓海くんがあたしのことを優先したのが気に入らなかったんだと思う。失敗した。もっと感じよく対応すればよかった。『ざまあ』とか思ってる場合じゃなかった……」
珍しく、晴菜が落ち込んでいる。
悠里が晴菜に掛ける言葉を探しているうちに昼休み終了のチャイムが鳴って、結局なにも言えないまま、悠里は五時間目の授業の準備を始めた。
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